行政法

行政法ドリルNo.18[解答編]


【設問】
次の記述について解答せよ。

➀「処分」(行政事件訴訟法3条2項等)の定義を答えよ。
②「行政主体」の定義を答え,その具体例を1つ挙げよ。
③「行政主体たる公共組合」がもつ4つの特徴を挙げよ。
④ある県が,行政主体たる公共組合に対して公共事業の認可を行ったとする。この場合,同認可が「処分」性をもたないとする主張を支える根拠を挙げよ。
⑤ある行政行為の根拠規範としての具体的な要件や手続が,法令に定められておらず行政内部規則(通達・要綱等)にのみ定められている事例に関し,下記(1)(2)について解答せよ。
(1)「処分」(行政事件訴訟法3条2項)の定義を構成する要素に「公権力性」がある。「公権力性」の定義を答えよ。
(2)この事例において,公権力性が認められる場合とはどのような場合か。

[解答のためのdialogue]
➀「処分」の定義を,その要素と共に押さえる

S東先生「では,➀の定義を答えてください。」

花子さん「『処分』とは,『公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められたもの』をいいます。」

S東先生「➀については,判例(最判昭39・10・29)が示した規範をそのまんま示すべきですね。この規範を正確に記憶し表現できるようにしておきましょう。定義や規範を記憶する際には,機械的に覚えるのではなく『なぜ,このような言い回しがされているのだろうか』『この定義は,どのような要素で構成されるのか』ということも意識したいところです。『処分』の定義を構成する要素は,次の2つに整理できます。『公権力性』と『直接具体的法効果性』です。論文式試験では,ある行政行為における『直接具体的法効果性』の該当性が頻繁に問われます。そのため,具体的な問題を通じて分析過程を理論的に明示できるようにしておきましょう。分析の視点としては,『当該行政行為が,何らかの権利義務に直接影響を与えるか。直接影響を与えるとして,それは具体的なものかどうか』を挙げることができます。仮に権利に対する制約が認められたとしても,その制約が一般的・抽象的なものに止まるのであれば,権利義務に具体的な影響を及ぼしません。換言すれば,『権利義務に具体的な影響を及ぼす』とは,『紛争として具体化・成熟している』ということです。なお,さらに要素を細かく見ると,『直接』『法律上』という要素も重要です。『直接』については,後の④でも触れることになりますが,仮に当該行政行為が行政内部における行為に止まる場合,国民の権利義務に『直接』影響を及ぼすことはありません。『法律上』については,『法律』に条例も含まれると解すべきでしょう。例えば,県や市町村といった地方公共団体が条例を根拠とした行為を行う場合です。次は②ですね。『行政主体』とは何か,ということです。『行政主体』の定義及び具体例を答えてください。」

②『行政主体』とは何か(統治権を行使する行政主体とそれ以外の行政主体)

花子さん「『行政主体』とは,行政事務を行うことを目的として設立された権利主体です。具体例は,国です。」

S東先生「そうですね。他の具体例としては都道府県や市町村といった地方公共団体があります。国や都道府県,市町村は統治権を行使する主体です。では,これら統治権を行使する主体以外にも『行政主体』としての権利主体は存在するのでしょうか。存在するとした場合,具体例を挙げてください。」

花子さん「存在します。例えばかつての日本国有鉄道(すなわち現在のJRの前身)です。他には日本道路公団に代表される各種公団もそうです。」

S東先生「いいでしょう。試験によく出る『行政主体』は,建築基準法6条の2に基づいて建築確認を行う指定確認検査機関ですね。指定確認検査機関は民間企業ですが,建築確認という行政処分を行う権限を法によって付与されており,当該処分については行政庁として扱われます。では,ここで確認しますが,指定検査機関がした建築確認の取消訴訟では,誰が被告となりますか。」

花子さん「指定確認検査機関です。指定確認検査機関は,建築確認という行政処分について行政庁として扱われるからです。根拠規定は,行政事件訴訟法11条2項です。」

S東先生「その通りです。なお,この後の③④で登場する『公共組合』は論文式試験(平成25年度司法試験)に出題されたことがあります。では,③について答えてください。」

③『公共組合』がもつ特徴とは

花子さん「『公共組合』のもつ4つの特徴は,強制加入制,公権力の付与(経費等の賦課徴収権の付与),解散の自由の制限,国による特別の指揮監督権です。」

S東先生「そうですね。『公共組合』がもつこれらの特徴については,民法上の任意組合と対比する形で押さえるとよいでしょう。また,具体的な事例問題で『公共組合』の法的性格を答える場合,これら4つの特徴を単に羅列するだけでは足りません。具体的な条文と関連づけて指摘できることが大切です。では,④を検討します。④の主張を支える根拠とは何でしょうか。」

④行政の内部行為が国民の権利義務に与える影響

花子さん「『ある県』という上級行政機関が,下級行政機関である『行政主体たる公共組合』に対して『公共事業の認可を行』うという行為は,行政機関相互の行為と同視できるので,あくまで行政内部の行為です。そのため,本問の認可によって『直接』国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する効果は生じない,が主張の根拠になります。」

S東先生「そうですね。ちなみに④は,行政事件訴訟における被告側の反論としての主張と位置付けることもできますね。では,本問のような行政主体たる公共組合に対する認可は,つねに『処分』性を否定されてしまうのでしょうか。」

花子さん「いえ,行政主体に対する行為であっても,『処分』性がつねに否定されるわけではありません。例えば,当該行政行為が行政主体の構成員の権利義務を直接具体的に形成する等の効果をもつ場合もあり得るからです。」

S東先生「そうですね。先ほど『処分性の定義においては,“直接”という要素も重要だ』と述べましたが,行政主体としての性格をもつ団体に対する認可であっても,当該団体の構成員の権利義務に『直接』的かつ具体的な法効果をもたらす場合があれば,形式的には行政内部の行為であっても,実質的には国民の権利義務を『直接』形成し又はその範囲を確定することがあるのです。換言すれば,仮に当該行政行為が国民の権利義務に具体的な影響を及ぼすものであっても,その影響が『直接』的なものでない場合,当該行政行為に『処分』性は認められません。行政行為の『処分』性の有無が問われた場合,単に『権利義務(あるいは法的地位)に対する具体的な影響が認められる』とするのではなく,その影響が『直接』的に国民に向けられたものかどうかまでしっかり意識することが大切です。では,⑤を検討しましょう。⑤(1)の『公権力性』の定義を答えてください。」

⑤(1)“上から目線”の「公権力性」
花子さん「『公権力性』とは,行政主体と国民とが対等の立場で合意によって権利義務を形成するのではなく,行政機関が法令に基づいて,国民より優越的な立場で一方的に国民の権利義務を形成することをいいます。」

S東先生「その通りです。『処分』該当性を検討する場合,この『公権力性』に該当するかどうかも忘れずに示す必要があります。では,なぜこの『公権力性』の要件が必要とされているのでしょうか。契約との対比から考えてみましょう。例えば,行政主体と国民が売買契約を締結し,行政主体が売主,国民が買主である場合を想定してください。この場合,国民の側に『直接具体的法効果性』は生じますか。」

花子さん「売買契約の締結によって買主に具体的な目的物給付請求権(対応する形で具体的な代金支払債務)が発生しますから,国民の側に『直接具体的法効果性』は生じます。」

S東先生「そうですね。対等な立場で締結される契約においても『直接具体的法効果性』は認められます。しかし,契約に『公権力性』を認めることはできません。なぜでしょうか。」

花子さん「うーん,ちょっと考えてみてもいいですか。」

S東先生「そうですね。ここは時間を取って考えてもらいましょう・・と言いたいところですが,この記事は原則として1回読み切りですので,今この場で考えて答えてください。そうしないと『この続きは2週間後,お楽しみに』となり,検討内容も直ぐに忘れてしまいます。話を契約に戻します。当事者が対等な立場で合意する契約に『公権力性』が認められないことは,先ほど花子さんが答えた『公権力性』の定義に答えが存在します。『公権力性』の定義に照らしてみてください。」

花子さん「あっ,そうか。定義に照らして判断することが何より大切ですね。『公権力性』は行政主体が国民よりも優越する立場で法令に基づく権力を行使する場合の概念ですから,当事者が対等な立場で合意する契約とは全く異なりますね。契約は,当事者が対等な立場でその合意に基づいて成立するものですから,『公権力性』の概念に該当しません。」

S東先生「そこまで考えて,ようやく『処分』と『契約』の区別ができたことになりますね。『公権力性』においては,『契約』と異なり相手方である国民の意思を介在させる余地がありません。このように,ある概念の定義を理解するためには,別の概念と対比させることが有効です。では,⑤(2)について検討しましょう。まず,ある行政行為の根拠規範としての具体的な要件や手続が,法令に定められていない場合,当該行政行為は形式的に見て『公権力性』があると言えるでしょうか。これまで検討してきた『公権力性』の定義に遡って答えてください。」

⑤(2)『通達・要綱』の法的性質を明らかにする

花子さん「『公権力性』とは,行政機関が法令に基づいて,国民より優越的な立場で一方的に国民の権利義務を形成することをいいます。当該行政行為の根拠規範が具体的な法令に定められていないのであれば,その行政行為は,『法令に基づいて』行われないのですから,上記『公権力性』の定義に沿いません。」

S東先生「『通達・要綱』は,法令ではないのでしょうか。」

花子さん「『通達・要綱』はあくまで行政内部においてのみ通用する内部規則としての規範に過ぎませんから,外部性のある法令にはなりません。」

S東先生「そうですね。『通達・要綱』と『法令』を比較することが重要です。では,根拠規範としての具体的な手続きが『通達・要綱』にのみ定められた行政行為は,つねに『公権力性』がないとされてしまうのでしょうか。」

花子さん「一概に『公権力性』がないとすることはできません。『通達・要綱』の法的性質次第です。本問は根拠規範とされる『通達・要綱』について具体的に示されているわけではないので,あくまで仮定の議論になりますが,例えば根拠規範とされる『通達・要綱』が,法令(法律・政令)の仕組みを全体的に解釈した結果,法令を具体化するものと見ることができれば,その『通達・要綱』は法令と一体化したものと解することが可能です。『通達・要綱』を法令と一体化したものと解する場合,当該行政行為の根拠規範を法令に求めることが可能なので,『公権力性』を認めることができます。」

S東先生「そうですね。本問では『通達・要綱』の法的性質を分析することがポイントです。試験でもこうした行政の内部規則がもつ法的性質を詳細に分析することで解答を導く問題がよく出題されますね。一般的に『通達・要綱』は,あくまで行政内部において通用する規範であり,直接国民に影響を及ぼすものではないとされます。しかし,事例によっては,具体的な手続が『通達・要綱』のみに定められながらも,実質的には法律及びその委任を受けた政令を具体化する規範として用いられるケースもあるわけです。このようなケースでは,具体的な要件や手続が法令に定められていなくとも,当該行為の根拠が法令にあり当該行為が法令に基づいて一方的に行われるものとして,『公権力性』を認めることが出来ます。以上のように,事例問題で『通達・要綱』が登場した場合,その法的性質について法令の仕組みや関係を見ながら慎重に分析することが求められるでしょう。」

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