商法

商法ドリルNo.21[解説編]

1 Xの請求を拒みたいYとしては,手形に関する問題点を指摘し,債務負担を逃れることを望むだろう。Yとしては,「債務なんかハナッからありゃしない。あるいは途中で消えちまったよ」と言いたいであろう。このYの言い分をもとに,事案を注意深く見るのだ。
 前述したように,手形法の考え方の基礎にあるのは,民法である。手形法は,商法・会社法と同じく民法の特別法なのだから,民法的な視点を忘れないことが大切だ。民法の問題では,しばしば「法律関係」や「請求の可否」が問われる。これは,おおざっぱにいうと,ある権利(または義務)の発生、移転や消滅等の「権利義務の行方」が問われているのである。手形法もほぼ同じといってよい。そのため,まずは手形上の債務が有効に発生しているかどうかを見る。
 まず,本問で手形が振り出されたのは,A株式会社(以下,A)が,貸金業者X(以下,X)から事業資金3000万円を借り受けたことを契機とする。このように「何のために手形が振り出されたのか」を特定する。本問では,AX間に消費貸借契約が成立し,Xは貸金返還請求権を行使するために,手形を用いていることが分かる。
注意したいのは,手形の振出日と満期が白地(空白)であったことだ。つまり,手形の必要的記載事項である振出日と満期(手形法75条3号,6号)が空白なのだから,手形の有効要件に欠け,無効なのではないか(債務の発生は否定されるのではないか)という問題が生じる。結論としては,有効な手形として扱われる。「白地手形は,手形の必要的記載事項を欠いているのになぜ有効なのか」という点から考えてみよう(白地手形と無効手形の区別)。
ただ,白地手形として有効であるとの結論を得ても,さらに残された問題がある。
次に,本問の事案を注意深く見ると,「平成16年12月20日」「平成19年5月頃」「平成22年4月9日に至り」などと,日付が多く登場し,しかも数年間のスパンが存在することも分かる。こうした事情から想起すべきは,「時効」である。具体的には,「Xの権利(例えば白地手形の空欄を補充する権利である「白地補充権」)は,時効によって消滅しているのではないか」ということである(ところで,筆者の場合,民法であればこうした日付を見て「ああ時効だな。検討すべきことが分かってよかった」と反応できるのだが,手形法だとつい忘れてしまう。やはり,民法的な視点をもつことが大切なのだ)。
本問では,手形の満期が白地となっている。満期を補充する行為は,手形行為の一環であり商行為(商法501条4号)と同視できるので,消滅時効は5年となる(商法522条本文)。ちなみに手形上の権利行使の消滅時効は3年である(手形法77条1項8号・70条1項)。満期が補充されないままでは,手形上の権利行使の要件を充たさないため,本件のように満期白地のケースでは,70条1項ではなく商法522条本文が適用されることに注意が必要だ。
では,起算点はいつの時点か。起算点とは,民法でも勉強する通り「権利行使可能な時期」である。本問で注目すべきは,AX間の合意①②である。この合意①②によると,どうやら,Aが利息をXに滞りなく支払い続ける限り,Xは元金の支払いを猶予してくれるとのことだ。Xは優しいですな。つまり,元金の支払請求権は,Aの利息支払が滞った時点において発生することになる。さらに合意③によると,貸金債権確保のために手形を用いるのだから,先述の白地手形に要件を補充する権利(「白地補充権」)についても,合意②に照らし,Aが利息の支払いを滞らせた時点が権利行使時点(消滅時効の起算点)ということになる。本問では,問題文にあるように平成19年8月以降となる。
他方,Xが,先述の白地手形に要件を補充したのが平成22年4月9日である。この時点を起算点とする考え方はどうか。たしかに,先の白地手形と無効手形の区別という論点からすると,手形の要件が補充された時点を権利行使可能な時期とすべきかに見えるが,この考え方に従うと,消滅時効の起算点を,債権者の一方的な意思で決することができてしまう。補充権をいつの時点で行使するかは,白地手形を受け取った者の意思に委ねられているからだ。そのため,時効制度の安定性をいたずらに損ねるため妥当でない。また,AがXから3000万円を借り受けた平成16年12月20日とすることも妥当でない。Xがこの時点では手形に必要な事項を記載していないこと及び合意①②③から,AXの合理的な意思にも沿わないだろう。
以上から,Xの権利につき消滅時効の要件を充たすことはないことが分かる。
2 ほかにも何か問題はないか。「会社」と「取締役」の関係がどうも怪しいぞ・・。
 Yとしては,何とかXの請求を拒みたい。そのための手段として,会社内の問題点を指摘するのである。着目すべきは,A社が,取締役Yを受取人として,同人に手形を振り出していることだ。A社という「会社」とYという「取締役」が,手形に係る取引を直接的に行っている。さらに,A社では,Yに対する手形を振り出すことにつき,取締役会の承認を得ていない。この事実から想起したいのは,会社と取締役の利益相反(会社法356条1項2号)の該当性である。この辺りは,手形法の知識がなくとも,会社法で学ぶ(短答式過去問でも頻出である)知識があれば,何とか想起できるだろう。後は,利益相反に関する論点に関する処理を行えばよい。例えば,利益相反の判断基準及び(利益相反に該当する場合の)相手方の取引安全について等である。これは,会社法のみならず民法の親族分野でも学ぶ議論である。併せて確認しておこう。

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