次の【設問】について解答せよ。
【設問➀】行政庁Aが,行政規則としての裁量基準に従って,営業許可申請を求めるBに対し,「裁量基準に従えないのであれば,営業許可は出せない」として,営業不許可処分を行った。
裁量基準に従うことに疑問を抱くBは,かかる処分の適法性を争いたい。Bの立場から,どのような主張をすることが考えられるか。考えうる2つの主張を答えよ。
【解答】
(1)行政規則は,あくまで行政内部で通用する規範である。国民の権利義務を直接規律する効果(外部的効果)をもたない。そのため,国民としては行政規則に拘束されない。そうすると,Bとしては,行政規則である裁量基準に従う必要はない。したがって,Aの処分は法律の根拠に基づかず,不適法である。
(2)仮に裁量基準自体が合理的であったとしても,具体的な事案との関係でその適用の合理性が問題となる。Bは,「自分にその裁量基準を適用することに合理性はない」と主張する。
⇒行政規則(裁量基準,処分基準等)の問題を分析する際は,上記2つの観点から分析してみよう(もちろん,つねにこれらの観点から分析することが求められるわけではない。当事者の立場を充分に意識しながら主張を確定させることが大切だ)。司法試験論文式試験平成26年度[設問1],29年度[設問2]小問(2),予備試験論文式試験平成28年度も参照。
【設問②】仮に,上記➀の事例で,Bが「行政庁A様の言うことなら何でも聞きます。私に至らないことがあったら即座に指摘してくださいね。即時に直します。裁量基準?もちろん従いますよ。何しろ偉い行政庁A様がこしらいたルールなのですから,守らないはずがありません。」などとおべんちゃらを言いながら,行政庁Aに営業許可の申請を行った。行政庁Aは,「おお,Bは愛い奴だ。こんな国民ばかりなら統治もスムースに進むのだがね。理想の統治状態とは,我々の支配を支配と国民に気付かせないことだ。自由なんて仕組んでナンボなのだよ。キミもそう思うだろう?ガハハ。」と部下の職員に言いつつ,申請時に裁量基準の要件を充足していたBに対し,営業許可の処分を行った。
ところが,Bは,営業許可の処分を受けた直後,裁量基準が求める事項に反する行動に及んだ。これを知った行政庁Aは激怒し,「あのBの野郎,裏切ったな。営業許可をナシにしてやる。」と息巻いた。
ⅰこの事例で,行政庁Aは,Bに対しいかなる手段を講じることができるか。手段を一つ挙げよ。
【解答】営業許可処分の撤回である。
ⅱ行政庁Aが講じた上記ⅰの手段に対し,Bは,「法律の根拠がなければそんなことはできないはずですよ。法律知らないんですね,行政庁なのに。」と余裕をかまして傲然としていた。かかるBの反論の当否を答えよ。
【解答】撤回とは,処分自体は適法に成立したのだが,後発的な事情により,当該処分の適法性が維持されなくなったので,公益に適合させるため,将来に向けて当該処分を消滅させることをいう。
かかる撤回は,たしかにBの台詞にあるように,法律の明文規定に基づかない処分である。そのため,法律による行政の原理からすれば,許されないかに見える。しかし,上述のように,撤回は公益性を守るために行われる処分である。また,後発的な事情により,当初の処分の適法性が維持されなくなった場合,かかる処分を消滅させるべきなのは,公益性維持の見地から,処分成立時に予定されていたと見るべきだろう。したがって,撤回において特別の法律の根拠は不要なのである。
よって,「法律の根拠がなければそんなことはできない」というBの反論は,妥当でない。
【設問③】「撤回」と「職権取消」は,いかなる点で異なるか。2つ挙げよ。
【解答】以下(1)(2)の点で異なる。
⑴「撤回」の場合,撤回の対象となる処分は,成立当初は適法(瑕疵がない)である。これに対し「職権取消」の場合,取消しの対象となる処分は,成立当初から不適法(瑕疵がある)である。
⑵「撤回」の場合,対象となる処分は将来的に消滅する。これに対し「職権取消」の場合,対象となる処分は遡及的に消滅する。この両者の違いは,上記(1)で述べたことに由来する。成立当初適法な処分については,遡及的に消滅させる必要はない。一方,成立当初から不適法な処分については,遡及的に消滅させる必要がある。
【設問④】行政規則は,「附款」にあたらない。それはなぜか。
【解答】
「附款」とは,行政処分の効果を制限し,あるいは特別な義務を課すため,処分本体に付加される従たる定めをいう。このように附款は,処分に付加されている定めなので直接国民の権利義務に具体的な影響を及ぼす。すなわち国民を拘束する外部的効果をもつ。
これに対し,行政規則は,法規命令とは異なり行政機関内部においてのみ通用する規範であり,国民の権利義務に直接影響を及ぼさない。すなわち国民を拘束する外部的効果をもたない。
以上から,行政規則は「附款」にあたらない。
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