行政法

行政法ドリルNo.12[解答編]


【設問➀】
「住民の大迷惑と行政の効率的運営の未来」

A社は,B県において,産業廃棄物処理施設の設置を計画し,B県知事に対して設置許可の申請をして同許可を得た。しかし,周辺住民は,同施設が許可基準を満たしていないにもかかわらず, 虚偽の内容の申請書を提出して同許可を受けたと主張し,B県に同許可を取り消すように求めた結果,B県知事は,同許可を取り消した。次のアからエまでの各記述について,行政手続法に照らし, それぞれの正誤を解答せよ。

(参照条文)廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第15条 産業廃棄物処理施設(中略)を設置しようとする者は,当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
2~6 (略)
第15条の3
都道府県知事は,次の各号のいずれかに該当するときは,当該産業廃棄物 処理施設に係る第15条第1項の許可を取り消さなければならない。
一,二 (略)
三 不正の手段により第15条第1項の許可又は第15条の2の5第1項の変更の許可 を受けたとき。
2 都道府県知事は,前条第1号(注:施設の構造等が技術上の基準等に適合していない と認めるとき),第2号(注:設置者の能力が基準に適合していないと認めるとき)又は 第4号(注:設置者が当該許可に付した条件に違反したとき)のいずれかに該当するときは,当該産業廃棄物処理施設に係る第15条第1項の許可を取り消すことができる。

ア.産業廃棄物処理施設の設置許可は,周辺住民にとっては不利益処分であるため,B県知事は,処分の理由を公示しなければならない。
イ.B県知事は,産業廃棄物処理施設の設置許可の取消しをするかどうかについて判断するために必要とされる基準を定めておかなければならないから,これを定めないまま取消処分をすれば,違法事由となる。
ウ.B県知事は,A社について,聴聞の手続を執らなければならず,聴聞を行うに当たっては, 聴聞を行うべき期日までに相当な期間を置いて,A社に対し,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項,不利益処分の原因となる事実,聴聞の期日及び場所,聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地を書面により通知しなければならないが,周辺住民の意見を聴く公聴会を開催する義務はない。
エ.聴聞手続の主宰者は,公正な第三者でなければならず,B県知事が指名するB県の職員は,聴聞手続を主宰することができない。
【解答】
ア 誤っている。
たしかに,産業廃棄物処理の施設設置許可は,周辺住民連中にとっては,大迷惑以外の何物でもないので不利益といえそうではある。しかし,行政手続法における「不利益」とは,既存の利益(行政庁から授与された利益等)を制限し,又は剥奪することをいう(行政手続法2条4号本文)。本記述における産業物処理の施設設置許可は,以上の定義にあてはまるものではない。そのため,本記述における周辺住民連中の不利益は,行政手続法上の「不利益」ではない。
では,「周辺住民連中は,この大迷惑に伴う苦しみをどうすりゃいいの。何が周辺住民連中を救ってくれるの」と問われたならば,どうするか。周辺住民連中は,(処分の名宛人ではないので,第三者の原告適格の有無という問題はあるが)設置許可の取消しを求めて訴訟を提起することになるだろう。
イ 誤っている。
本記述における「設置許可の取消しをする」とは,既に行われた授益的な処分である「設置許可」をはく奪する処分なので,上記アで述べた「不利益処分」である。そのため「設置許可の取消しをするかどうかについて判断するために必要とされる基準」とは,処分基準である。
処分基準の定立は,努力義務に止まる(行政手続法12条1項。公表も同じく努力義務)。したがって,処分基準を定めないまま取消処分を行ったとしても違法事由にはならない。
なお,処分基準の法的性質は,行政規則である。行政規則は,直接国民の権利義務に影響を及ぼすものではなく,法規命令とは異なる。行政規則と法規命令の区別に関する問題も頻出である。
ウ 正しい。
行政庁が申請に対して処分を行う際,申請者以外の者どもの利害を考慮することも必要となる場合がある。
本問で,廃棄物処理場は,公益上必要不可欠な施設とはいえ,設置される周辺に住まう民衆にとってみれば迷惑施設である。そこで,行政庁においては,周辺住民連中を集めて彼らの意見を聴くために公聴会を開催することが求められるものの,開催はあくまで努力義務に止まる(行政手続法10条)。
エ 誤っている。
行政手続法19条1項及び同2項各号を押さえていれば,「B県知事が指名するB県の職員は,聴聞手続を主宰することができない。」という点が誤りであると分かる。
また,聴聞手続は行政手続の一環であり,行政手続きを行う主体は行政庁(場合によっては行政機関)である。そうとすれば,聴聞手続を少なくとも(処分を行った行政庁は除くとして)行政側が主宰することに誤りはないといえるだろう。聴聞手続の趣旨が,国民の意見陳述等を通じて不利益処分を行った行政機関に判断の是正の機会を設ける点にあるとすれば,聴聞手続自体もまた不利益処分を行った行政機関が行うことが予定されていると見るべきだろう。
問題文中の「公正な第三者」という箇所にも注目しよう。上述のように,聴聞手続の趣旨が,国民の意見陳述等を通じて不利益処分を行った行政機関に判断の是正の機会を設ける点にあるとすれば,聴聞手続を主宰する者は当該不利益処分を行った当事者としての行政機関であるべきだろう。「第三者」とすべきではない。

【設問②】
「なんとなく,知事だったり私人だったり」

次の文章は,A町と産業廃棄物処分業者(以下「処分業者」という。)であるYとが締結した公害防止協定(以下「本件協定」という。)に定められた,Yの産業廃棄物処理施設(以下「処理施設」という。)の使用期限を平成15年12月31日とする旨の条項(以下「本件期限条項」という。)に基づき,A町の地位を合併により承継したX市がYに対し,Yの処理施設の使用の差止めを求める訴えについて判断を示した最高裁判所平成21年7月10日第二小法廷判決の判示の一部である。後記アからエまでの各記述について,それぞれ同判決の考え方に適合する場合には1を, 適合しない場合には2を選びなさい。
「規定(注1)は,知事が,処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し,産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり,上記の知事の許可(注2)が,処分業者に対し,許可が効力を有する限り 事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。そして,同法には,処分業者にそのような義務を課す条文は存せず,かえって,処分業者による事業の全部又は一部の廃止,処理施設の廃止については,知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから (中略),処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行えることであり,その結果,許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても,同法に何ら抵触するものではない。したがって,(中略)本件期限条項が(中略)廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。」
(注1)廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)の諸規定を指す。
(注2)廃棄物処理法が定める産業廃棄物処理業の許可及び処理施設の設置許可を指す。

ア.市町村は,処分業者との間で公害防止協定を締結し,法律又は条例に根拠がなくても,協定の定めにより処分業者に対し,公害防止のための義務を課すことができる。
イ.市町村ではなく県が処分業者との間で公害防止協定を締結し,処分業者に対し,県知事が廃棄物処理法に基づいて行った許可が効力を有する期間内に,事業や処理施設を廃止する義務を課すことも,同法に抵触しない。
ウ.Yが本件協定の本件期限条項に違反して処理施設の使用を継続した場合,県知事は廃棄物処理法に基づく処理施設の設置許可を撤回することができる。
エ.市町村が処分業者に対し,公害防止協定に基づく義務の履行を求める訴えは,法律上の争訟に当たる。

【解答】
ア 1(正しい)
本記述における「公害防止のための義務」は,「公害防止協定」という合意(相互に私人として行う合意)に基づく義務である。この場合,市町村は,法律や条例の根拠によることなく同義務を課すことができる。上記の判旨にも「処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行えることであり,その結果,許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても,同法に何ら抵触するものではない。したがって,(中略)本件期限条項が(中略)廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。」という記述がある。
イ 1(正しい)
本記述も上記アと同様である。事業や処理施設を廃止する義務は,公害防止協定に基づいて課されるものなので,産業廃棄物処理法とは無関係に効力を生じさせることができる。この場合の県は,行政機関としての立場ではなく対等な私人としての立場から,処分業者に対して同義務を課するものだ。
ウ 2(誤っている)
アやイとは異なり,本記述の県知事は,公害防止協定の条項に違反した処分業者に対し,同協定ではなく廃棄物処理法に基づいて処理施設の撤回を行おうとしている。処分業者は,あくまで公害防止協定の条項に違反したのであって,廃棄物処理法に違反したわけではない。そのため,県知事としては,あくまで処分業者と対等な私人の立場から公害防止協定違反を根拠とした請求や責任追及ができるのみであって,行政庁の立場に立って廃棄物処理法を根拠とした不利益処分を行うことはできない。
本記述の県知事の態度は,平生は「我々は対等な仲間だ。官尊民卑は遠い昔の戯言さ。お互い,相互意思連絡を密にしてやって行こう。」とかなんとかいって肩を組んでガハハと笑っていた能天気なものだったが,都合が悪くなると「私は知事だ。首長だ。民間人のあなたが法律を守らないとは何事か。知事として法律に則り,あなたに対する許可をなしにしたい。」と法律を振りかざして粋がってくるようなものだ。つまり,本記述の知事は己の立場(ある時は対等な私人,またある時は行政庁という二面的な立場)を都合よく使い分けるものであり,こんなことは許されない。
エ 1(正しい)
「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは,当事者間の具体的権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり,法令の適用によって終局的に解決されるものである。
市町村が,処分業者に対し公害防止協定に基づく義務の履行を求める訴えは,処分業者に公害防止協定に基づく義務があるかどうかその存否を確定する訴えである。この訴えは,市町村と処分業者が対等な当事者として締結した公害防止協定の条項を適用して終局的に解決されるものだ。
したがって,市町村が処分業者に対し,公害防止協定に基づく義務の履行を求める訴えは,法律上の争訟に当たる。

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