商法

商法ドリルNo.10[問題編]


【設問➀】
「金も返さずに辞めるのはなぜ」

取締役が在任中に取締役会の承認を得て会社から金銭を借り入れたが,弁済期に返済しないまま退任してしまった。会社及び株主は,この取締役に対して「あんた,借りた金くらいちゃんと返しなさいよ。会社の金なんだからさ,困るのよ。それでもあんた元取締役なのかい。」と返還を迫った。
同取締役は「ちょっと何言っているか分からない」「返すって言ってんだろ!」「そんなに会社が困るのなら,私に金なんか貸さなければよかったじゃないか!貸さない自由だってあったんだ!」と怒鳴ったり粘ったり屁理屈をこねたりするばかりであった。会社及び株主は,この取締役をヤバい奴だと思い,法的措置を取ることにした。
以上の事例に関する以下の小問に答えよ。
[問]
(1)この取締役が会社から金銭を借り入れた行為は,会社法上いかなる取引に当たるか。
(2)この取締役は,会社に対して損害賠償責任を負うか。
(3)株主は,この取締役の責任を追及するための手段を取ることができるか。
(4)この取締役は,株主に対して損害賠償責任を負うか。

【設問②】
「僕はただ清らかなあなたの責任を信じている」

運送業を営むA株式会社は,小規模で同業を営んでいるB株式会社に自らの業務の一部を委託していた。B社では,これまで自らの商号によってその事業を行ってきたものの仕事を得ることが難しくなってきた。そこで A社は B社の代表取締役Cに対し「A社副社長」の肩書を付した名刺の使用を許諾し,さらに,B社は,事務所にA社の商号を表示した看板も掲げて事業を行うようになった。その後 B社は次第に資金繰りが悪化し事業の継続が事実上困難となってきたがCは,上記の名刺を用いて,DからB社の事業に用いている自動車の部品を100万円で購入し,Dは,B社の上記事務所において,相手方をA社と誤認して,当該部品を引き渡した。しかし,その代金は,Dに支払われなかった。
[問]
(1)Dは,A社に対して354条(類推適用含む)を根拠に責任追及することができるか。
(2)Dは,A社に対して9条(類推適用含む)を根拠に責任追及することができるか。

【出典】
設問➀は,旧司法試験平成6年度論文式試験商法第1問を簡易アレンジ。
設問②は,旧司法試験平成19年度論文式試験商法第2問を簡易アレンジ。

【分析の視点】
設問➀では,会社,株主それぞれの立場から,借金を踏み倒そうとする取締役に対して何を主張すべきかを広く検討し,法律構成する。その際,当事者同士の関係(例えば契約関係にあるのか,直接責任を追及できる関係にあるのか等)を意識する必要がある。
設問②では,相手方の主観的事情(信頼の対象)を特定することが大切だ。

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