商法

商法ドリルNo.9[解答編]


次の記述について解答せよ。

【設問➀】
甲株式会社の資産総額は200億円であり、甲会社の内規によれば、10億円以上の借入れには取締役会の決議が必要である。甲会社の代表取締役Aが、甲会社の名において乙銀行と次の取引をした。
(一) Aは、取締役会の決議を経ることなく、20億円を借り入れた。
(二) Aは、自己の住宅購入資金にあてるため、2億円を借り入れた。
以上につき,次の小問(1)(2)について解答せよ。
(1)(一)について,Aが乙銀行から20億円を借り入れた行為に対しては,取締役会決議が必要とされるか。
(2)(一)について,仮にAが乙銀行から20億円を借り入れた行為につき取締役会決議が必要だとする。Aの借入れの効力はどう考えるべきか。
(3)(二)について,Aが乙銀行から自己の住宅購入資金にあてるために2億円を借り入れる際,取締役会の承認を受ける必要はあるか。
(4)(二)について,仮にAが乙銀行から自己の住宅購入資金にあてるために2億円を借り入れる際,取締役会の承認を受ける必要があるとする。Aの借入れの効力はどう考えるべきか。
【解答】
(1)取締役会決議が必要とされる。
Aが乙銀行から20億円を借り入れた行為は,会社法362条4項2号「多額の借財」に当たる。甲会社の資産総額は200億円であることから,その10分の1に当たる20億円は,甲会社によって「多額」といえるだろう。したがって,Aは,乙銀行から20億円を独断専行的に借り入れることはできず(362条4項柱書),キチンと甲会社の取締役会の決議(369条1項)を経る必要があった。
(2)原則として有効である。乙銀行が甲会社において取締役会決議を経ていないことを知り又は知り得べかりし事情がある場合は例外的に無効とすべきである。
会社法が求めている手続きに違反しているのだから,無効とすべきとも思えるが,取締役会決議は内部的な意思決定であって会社外の者にとっては可視性に乏しい。そのため,相手方の取引の安全を保護する観点から,原則として有効である。
もっとも,取締役会決議を経ていないことを知り又は知り得べかりし者は保護に値しないから,例外的に無効とすべきである。
なお,本問のケースは,後述する(二)と異なり,民法93条ただし書の類推適用の場面ではないというべきだろう。「会社内部の手続き(意思決定)と取締役の外部的行為のズレ」を「内心と外部的意思表示のズレ」とは異なるので,両者を「構造が類似する」とするのは無理があるのではないか。取締役会決議は,法が求める手続としての内部的意思決定であって,心の動きや真意といった心的要素を構成要素とする「内心(心裡)」とは異なるのだ。
ここで,「民法93条ただし書の類推適用としてもしなくても,相手方保護のために求められる主観的事情は同じだ。じゃったら民法93条ただし書類推適用と示したって問題ないのでは。」という考えもありうる。しかし,主張立証の観点から見れば,相手方が重視する対象(主観的事情)及びその立証の難易度は,(一)(二)で異なるはずだ。(一)のような「多額の借財」における「取締役会決議」は,会社法が求める手続的な要件であり,融資する銀行としては当然に取締役会の承認を得たかどうか確認すべきである。これに対して,(二)のような「多額の借財」とまではいえないケースでは,銀行は,Aの内心を知っていたかあるいは知り得たか(知り得べかりしか)どうかによって保護されるかどうかが変わってくることになる。相手の内心という主観的要素を知る・知り得るということは,法が求める手続きという客観的な手続きの存在を知る・知り得ることに比べて,そう容易いことではないだろう。このように構造的に主張立証の難易度にかなりの差があることから見ても,(一)における相手方の主観的事情について,(二)と同じく民法93条ただし書類推適用を持ち出すことは妥当でないと考えるのである。
(3)取締役会の承認を受ける必要がある。
2億円は,(一)と異なり「多額」とはいえないだろう。世間的に見れば2億円は莫大な金額だが,資産総額200億円の甲社において2億円はその100分の1に過ぎないため「多額」と評価できない。また(一)と(二)で,求められる法律構成が異なるであろうといった解答政策的な判断からも,(二)では「多額の借財」に当たらないとした方がいいのだろう。
(二)で,Aが自己の住宅購入資金にあてるために(なんてセコい奴なんだ),甲社の名において乙銀行から2億円を借り入れた行為は,Aが同取引を通じて甲社の犠牲の下に自己の利益を図る間接取引(会社法356条1項3号)に当たる。
Aの借入れは,形式的には甲会社と乙銀行の取引であるが,実質的(経済的)には2億円はAの懐に入り,Aの個人的な住宅資金の購入(ほんとセコい奴なんだ)に充てられるものであった。すなわち,甲会社はAの個人的な住宅資金購入のために乙銀行から2億円を借入れているので,Aは甲会社に2億円を負担させる形で甲会社の犠牲のもとに自らの利益を図ったといえる。したがって,Aが甲社の名において乙銀行から2億円を借り入れた行為は,甲会社とAとの利益が相反する取引(会社法356条1項3号)なので,Aは甲会社の取締役会決議の承認を受ける必要があった(会社法365条1項・356条1項柱書)。
(4)原則として有効である。乙銀行が,Aの内心(住宅購入資金にあてる目的)を知り又は知り得べかりしときは,民法93条ただし書類推適用によって例外的に無効となる。このケースは(一)と異なり,Aの内心の動き(真意)とそれに対する乙銀行の認識(主観的事情)が問題となる。
【設問②】
取締役会設置会社であるA株式会社(以下「A社」という。)は,事業として甲県内においてトラックによる陸上貨物運送を行っている。A社の取締役であるBの行為について述べた以下の記述について解答せよ。
営業として甲県内においてトラックによる陸上貨物運送を行っているBが,A社の取締役
会において,当該運送に係る取引につき重要な事実を開示することも,その承認を受ける
こともしていない場合には,A社は,当該運送に係る取引によってBが得た利益を自己の利
益とみなすことができるか。
【解答】
自己の利益とみなすことはできない。
たしかにA社が甲県で展開する事業であるトラック陸上運送と,Bが営業として甲県内で
行っているトラック陸上貨物運送とは同種の事業に属する。
しかし,Bは,既に「営業として甲県内においてトラックによる陸上貨物運送を行っている」
状況であり,これからA社の事業の部類に属する取引を「しようと」(会社法356条1項
1号)しているわけではない。そのため,Bが甲県内において営業として当該運送を行っていること自体は,会社法365条1項・356条1項柱書に反するものではない。したがって,Bが当該運送に係る取引によって得た利益を,A社の利益と見ることはできないだろう。
以上から,本問のA社は,当該運送に係る取引によってBが得た利益を自己の利益とみなすことはできない。
(もちろん,Bが自ら営業として行っている当該運送のためにA社の事業のノウハウや顧客等を利用し,これによってA社に損害を及ぼしたとすれば,BはA社に対して423条1項本文に基づき損害賠償責任を負うだろう。)
【設問③】
次の記述の正誤について解答せよ。
同一の不動産について,その差押えと吸収分割による権利義務の承継との間の優劣は,不動
不動産の差押えの登記の時と吸収分割承継会社が吸収分割の登記をした時の先後で決する。
【解答】
1誤っている。
「ある同一不動産を巡って差押えと吸収分割が競合するってあるのか」という点から,「どうもおかしい」として誤りと判断できれば充分だ。ただ,本稿では,それで終わらせてしまっては勿体ないので,下記のようにネチネチ陰気に考えてみた(実際は「考えたフリ」なんじゃないかと思われてしまいそうだが,「考えた」ことにしておいていただきたい。)
2(1)吸収分割の効果から分析すると,以下のようになるだろう。
ある不動産が差押えられたということは,その不動産を担保として債務が存在していたということであり,かかる債務は,吸収分割会社が当該不動産と共に承継する。そのため,吸収分割承継会社は,吸収分割後に当該不動産を担保とする債務を負担するのだから,当該不動産の差押えのリスクを受忍すべきだろう。そうすると,当該不動産の差押え登記が吸収分割の登記の後になろうとも,差押えは有効である。すなわち,同一の不動産についてその差押えと吸収分割による権利義務の承継との間の優劣は,不動産の差押えの登記の時と吸収分割承継会社が吸収分割の登記をした時の先後で決することにならない。
(2)あるいは,当該登記の公示対象・機能に着目することも可能だ。
同一の財産を巡る優劣が,登記の先後によって決せられるのは当該財産に対して行われた特定の権利を公示する登記が複数存在する場合である。
不動産の差押えの登記は,当該不動産を差し押さえ,当該不動産について強制競売手続きが開始されたことを公示する機能をもつ。
これに対し,吸収分割承継会社における吸収分割の登記は,吸収分割による権利義務の承継を公示する機能をもつのであって,当該不動産に対する具体的な権利を直接公示するものではない。そうすると,吸収分割の登記は当該不動産を目的として行われるものではないが,本問における差押えの登記は,当該不動産に係る担保権実行を目的として行われるものなので,それぞれの登記の先後によって差押えと吸収分割による権利義務の承継の優劣が決せられるものではない。

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