商法

商法ドリルNo.10[解答編]


【解答】における会社法名については省略する。

【設問➀】
「金も返さずに辞めるのはなぜ」

取締役が在任中に取締役会の承認を得て会社から金銭を借り入れたが,弁済期に返済しないまま退任してしまった。会社及び株主は,この取締役に対して「あんた,借りた金くらいちゃんと返しなさいよ。会社の金なんだからさ,困るのよ。それでもあんた元取締役なのか」と返還を迫った。
同取締役は「ちょっと何言っているか分からない」「返すって言ってんだろ!」「そんなに会社が困るのなら,私に金なんか貸さなければよかったじゃないか!貸さない自由だってあったんだ!」と怒鳴ったり粘ったり屁理屈をこねたりするばかりであった。会社及び株主は,この取締役をヤバい奴だと思い,法的措置を取ることにした。
以上の事例に関する以下の小問に答えよ。
[問]
(1)この取締役が会社から金銭を借り入れた行為は,会社法上いかなる取引に当たるか。
(2)この取締役は,会社に対して損害賠償責任を負うか。
(3)株主は,この取締役の責任を追及するための手段を取ることができるか。
(4)この取締役は,株主に対して損害賠償責任を負うか。

【解答】
(1)直接取引(356条1項2号)に当たる。取締役は,「自己のために」会社から金銭を借りており,両者の間では消費貸借契約が成立する。
(2)取締役は,会社に対して損害賠償責任を負う。取締役は,弁済期に返済しないままであったので,会社に対する契約履行責任を懈怠したといえる。そのため,423条に基づいて(民法415条も考えられるが,会社法上の根拠がメインとすべきだろう)。会社に対して損害賠償責任を負うことになる。428条によれば,原則として取締役は責任を免れることはないだろう(例外的に424条の「総株主の同意」によって責任を免れることはあり得る。428条2項は,424条の適用を排除していないためだ)。
また,上記取引は取締役が在任中に行ったものであり,同取引から生じた責任は,同取締役が退任したからといって消えるものではない。
(3)株主は,847条に基づいて会社に対して取締役に対する責任を追及するよう会社に請求することができる。それでもなお会社が「我々の“お友達”である取締役に対して責任を追及するなんて・・」とのらりくらりと放置するようであれば,株主自ら責任追及の訴えを提起できる。
ここで,847条における「責任」に,本問のような取締役と会社の取引に係る責任も該当するかが問題となる。847条の想定する「責任」は,あくまで会社における「役員等」の立場に基づいて発生する責任である。そのため,当該取引が取締役の立場を利用して行われたのであれば,847条規定の「責任」に含まれる。(3)で述べたように,取締役の退任後であっても責任は存続する。
(4)この取締役は,株主に対して損害賠償責任を負わない。たしかに,429条1項「第三者」に株主も該当し,「損害」には本問のような間接損害(=取締役の任務懈怠に基づいて会社財産に損害が生じ,更に反射的に株主が損害を被る構図である)。
しかし,上記(3)で述べたように,株主は株主代表訴訟を通じてこの取締役の責任を追及することで会社財産の回復を図ることができるので,429条1項に基づく損害賠償請求を通じた間接損害の回復を図ることは許容されないであろう。

【設問②】
「僕はただ清らかなあなたの責任を信じている」

運送業を営むA株式会社は,小規模で同業を営んでいるB株式会社に自らの業務の一部を委託していた。B社では,これまで自らの商号によってその事業を行ってきたものの仕事を得ることが難しくなってきた。そこで A社は B社の代表取締役Cに対し「A社副社長」の肩書を付した名刺の使用を許諾し,さらに,B社は,事務所にA社の商号を表示した看板も掲げて事業を行うようになった。その後 B社は次第に資金繰りが悪化し事業の継続が事実上困難となってきたがCは,上記の名刺を用いて,DからB社の事業に用いている自動車の部品を100万円で購入し,Dは,B社の上記事務所において,相手方をA社と誤認して,当該部品を引き渡した。しかし,その代金は,Dに支払われなかった。
[問]
(1)Dは,A社に対して354条(類推適用含む)を根拠に責任追及することができるか。
(2)Dは,A社に対して9条(類推適用含む)を根拠に責任追及することができるか。

【解答】
(1)354条が直接適用されないことについては問題ないだろう。CはB社の(代表)取締役であってA社の取締役ではない。Cは354条の「取締役」に当たらないのだ。
では,354条類推適用はどうか。CがA社の代表権限をもつものと信じて取引に応じたDの取引の安全を保護すべき観点から,同条の趣旨を実現すべく類推適用してもよさそうだ。しかし,結論からすると,本問で354条の類推適用は否定される。以下の理由に基づくようだ(本問のベースとなったと思われる浦和地裁平成11年8月6日判決を参考)。
354条は,あくまで当該株式会社の指揮監督が及ぶ者(すなわち当該会社の業務に従事する者)に代表権限を有するものと認められる名称を付した場合を想定した規定であり,本問におけるCのようなA社にとって外部の者に代表権限があるかのような名称を付した場合には類推適用が認められないとのことだ。また,同条が名称を付す客体を「取締役」に限って規定していることから,適用範囲をむやみに拡大することは避けねばならない。本問のA社が代表権限を認める名称を付したCは,社外の者である。そのため,354条類推適用によってDに対して責任を負うことはないのだ。
以上については「あっそ,ふーん」という感じでまあ納得できなくはないような気はする。とりあえず従っておけばまあ問題はないのだろう。しかし,次のような違和感も覚える。
354条の趣旨を重視すれば,代表権限を認める名称を付した者に関して354条が類推適用されるかどうかを「当該会社の業務に従事する者か否か」で区分することは妥当なのか。取引の相手方にとってみれば,会社の業務に従事するかどうかなんて(その会社内の人事や業務体系について精通していない限り)分からないことが通常だ。さらに会社内部の事情は可視性に乏しい。相手方が「この人,○○社の代表者なんだな。」と信頼しきって取引に応じたのに,「イヤ,この人は会社外の人間だから,アンタは保護されない。残念でした。」ってあまりに酷ではないのか。そうすると,「当該会社の業務に従事する者かどうか」で354条の適用あるいは類推適用の範囲を区分する見解は,取引の相手方の信頼を害すること甚だしいのではないか。
そもそも354条の趣旨は,究極的には相手方の信頼を保護することにあるのだから,まず見るべきは「相手方は取引時に何について信頼したのか,その信頼は正当か(保護に値するか)」ではないだろうか。すなわち354条が適用あるいは類推適用されるためには,取引の相手方において「代表権限の存在を信頼したこと」に特に注目することが大切なのではないか,ということだ。
「取引時において,相手方は何を信頼したか」に注目すると,本問のCは,問題文にあるように「相手方をA社と誤認した」とある。Dの信頼の対象は,「この取引の相手方はA社である」であって,「オレと取引しているこのCとかいうおっさんってA社の代表者なんだなあ。かっけーなあ。興奮してきたな。」ではないだろう。
以上から「取引時における相手方の信頼の対象が,代表権限の存在に置かれていたかどうか」に注目すれば,本問のDに354条が類推適用されないことが分かる。もちろん,CがA社内部の者かどうかが決め手になるものではない。
では,Dが354条類推適用によって保護されないとすれば,他にDを保護するための法律構成はあるのか。ここで注目すべきは,先にも示したが,DはCとの取引時に「相手方をA社と誤認した」事実である。この事実と「B社は,事務所にA社の商号を表示した看板も掲げて事業を行うようになった」事実を併せ,Dについて9条の適用(あるいは同条類推適用)によって保護されるべきかを検討することになる。換言すれば,本問の事案を見る限り(=後述するようにDの信頼の対象からすれば)むしろ9条の適用の有無がメイン論点となるのだから,354条の適用が問題とする必要がない(あるいは適用・類推適用の余地がない)ともいえるのではないか(先に紹介した浦和地裁平成11年判決においても,「○○会社との契約であると誤認していた」ことを重視した法律構成を述べていた)。
9条の検討において重要となるのが,B社がA社の商号を表示した看板を掲げたことについて,A社に責任があるのかどうかである。A社は,Cに対して「A社副社長」の肩書付名刺の使用を許諾したが,B社にA社の商号の使用まで許諾したわけではない。そのため,B社がA社の商号を使用してCと取引したことについて,A社に責めに帰すべき事由があるのかどうかを検討する必要がある。検討に際してポイントになるのが,「会社の代表者としての肩書付名刺(更にこれを広く頒布する行為)」のもつ意義・機能だろう。こうした名刺を使って商取引をすることが,取引通念上どのような意味をもつのか。「会社の代表者としての肩書付名刺の使用の許諾」からの「自社の商号の使用」は,取引社会において想定されるべき事態かどうか。
さらに,本問の事実を見る限り「B社がA社の商号を掲げ,あたかもA社であるかのように装ってCを通じてDと取引している。そのため,DはA社を相手方と誤認した」ということが強調されていると読める。そうすると, Dが「相手方をA社と誤認した」事実からすれば,354条が類推適用されないことはほぼ明らかなので,同条についてだらだらぐちゃぐちゃ検討することは得策ではなく,淡く否定してさっさと9条の検討に入るべきなのだろう。本問では,先述のように「Dが354条類推適用によって保護されるか」をネチネチ陰気に検討するよりも,事案に沿ってA社に名板貸人としての帰責性が認められるかどうかをシンプルに検討する方がずっと重要なのだ。
(2)既に(1)で述べたが,DはCとの取引をB社の事務所で行っており,その事務所ではA社の商号を表した看板が威風堂々掲げられていたため,Dは,当該取引の相手方がA社であると誤認したのだ。そのため,DとしてはA社の取引上の責任を追及すべく9条を根拠に請求を試みることになるだろう。
もっとも,A社はB社に対して,「俺っちの商号を使ってよい。」と許諾したとまではいえない。あくまでA社は,B社の代表取締役Cに対して「俺っちの会社の代表者としての肩書付名刺を使えばよい。俺っちの会社の代表と知れば,世間の連中は一発だ。」とイキった(夜郎自大的な)行為を許したに止まる。そのため,B社がA社の商号を使ってDと取引し,Dにおいて「これはA社との取引なんだ。ところでA社って初めて聞く名前だな。マイナーっぽい。このCっておっさんも名刺を振りかざしてチャラチャラしやがってしゃらくさい野郎だが,まあ取引が成立すればそれでいい。A社がきちんとやってくれるだろう。」という信頼を醸成させたことにつき,A社の責めに帰すべき事由が認められるのかどうか。ここをしっかり検討する必要がある。「代表者の肩書付の名刺の使用の許諾」が,「商号の使用の許諾」と同視できれば問題ないのだが,当然に同視することはできない。そのため,両者の間に横たわるギャップを埋めることができるかどうかを分析的に行うことが大切だ。

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