商法

商法ドリルNo.25(最終回)[解答編]

以下は,手形法に登場する概念である。それぞれについて解答せよ。
【設問➀】
(1)善意取得における「善意」とは何か。また,善意取得の適用範囲はどこまで及ぶか。
(2)隠れた取立委任裏書とは何か。隠れた取立委任裏書によって,手形上の権利は被裏書人に移転するか。
(3)人的抗弁とは何か。
(4)隠れた取立委任裏書がなされたが取立委任の合意が解除された場合,手形債務者は,被裏書人に対して支払いを拒絶することができるか。

【解答】
(1)裏書の連続(裏書の連続によって生ずる手形上の権利推定)に対する信頼である。裏書の連続した手形の所持人は,権利者と推定されることから(手形法16条1項),裏書の連続に対する信頼を保護することで手形取引の安全を図るのである。
 善意取得の適用範囲は,裏書の連続によって推定される事項に及ぶ。換言すれば,裏書の連続によって推定されない事項に瑕疵があっても,善意取得によってかかる瑕疵の治癒(カヴァー)はなされない。
 ⇒善意取得については,民法上の即時取得制度(民法192条)と類似する。取得者の信頼の対象や治癒される瑕疵の内容等,即時取得制度における論点も併せて復習しておこう。
(2)手形金の取立てのために譲渡裏書の形式を用いて手形を交付する方式をいう。
  隠れた取立委任裏書によって,手形上の権利は被裏書人に移転する。取立委任裏書の形式を採用せず,あえて譲渡裏書の形式を採用したのだから,被裏書人は債務者の被裏書人・受任者に対する抗弁をもって対抗されたとしてもやむをえない。
(3)人的関係に基づく抗弁である。手形そのものに付着する抗弁ではなく,人そのものに付着する抗弁である。
「手形そのものに付着」だの「人そのものに付着」だのって,抗弁をまるで塵芥かなんかに例えたかのような珍妙な表現だが,要するに手形債務そのものが時効によって消滅したような場合が「手形そのものに付着」する抗弁であり,手形取引者間で「アイツに騙された。アイツの主張は無効だ!」だの「彼奴に脅されて契約書を書かされた。彼奴はオレの腕をつかみながら,強引に契約書を押し付け,サインを迫って来たのサ・・。だから彼奴との間で成立した契約は取消しなのサ・・。」だのと当事者間でなされた行為に起因する抗弁が「人そのものに付着」する抗弁である。
  この「人的抗弁」については,「人的抗弁の切断」(「切断」とかってこれまた怖い表現である。およそ理性的・開明的ではなく,野蛮でさえある。しかし,理性的・開明的であるはずの法律の分野で,こうした野蛮な表現が通用していることに,一種の面白さを感じるような気がしないでもないように思うかもしれない。)についても併せて押さえておこう。頻出の手形法17条の解釈である。手形法17条の解釈については,予備試験論文式試験平成24年度に出題された。短答式試験では,平成29年度等で出題。
(4)拒絶することができる。取立委任の受任者には,独立した経済的利益がないからである。この「独立した経済的利益がない」は,民法94条2項「第三者」に債権の取立人が該当しないことの理由に類似する。

【設問②】
外形上通常の譲渡裏書であるが,取立委任の目的をもってされたいわゆる隠れた取立委任裏書について,手形上の権利は,通常の譲渡裏書におけると同様,裏書人から被裏書人に移転するとする説がある。
次の(1)(2)の各記述について解答せよ。
(1)被裏書人が取立委任の目的につき善意の第三者に手形を裏書譲渡したときは,その第
三者は,善意取得の規定によって保護されるか。
(2)取立委任の合意が解除されると,被裏書人の取立権限は消滅するか。

【解答】
(1)本問の第三者に善意取得の規定は適用されない。設問➀(1)で述べたように,善意取得の適用範囲は,裏書の連続によって推定される事項に限られる。裏書の連続によって推定されない事項には及ばない。本問の隠れた取立委任裏書は,「隠れた」とあるように裏書において書かれていない事項である。そのため,隠れた取立委任裏書がなされた場合,取立委任の目的は裏書の連続によって推定されない。したがって,隠れた取立委任の目的について善意の第三者に善意取得の規定は適用されない。
(2)取立委任の合意は,裏書人と被裏書人との間でなされた合意である。そのため,両者の間でかかる合意が解除されると,被裏書人の取立権限は消滅する。

【設問③】
(1)白地手形とは何か。
(2)手形の受取人欄に書かれた名前(例:受取人乙という記載)を抹消した場合,その手形は白地手形となるか。
【解答】
(1)白地手形とは,手形署名者が後日所持人をして補充させる意思をもって手形要件の全部または一部を空白にして流通においた手形をいう。商慣習法上有効とされる。
手形面上の記載のみを見れば,無効手形と区別ができないが,白地手形の作成も手形行為であり,法律行為である。そのため,白地手形として有効かどうかは手形署名者の意思による。そこで,手形署名者が補充権を与える意思をもっていたかどうかによって,無効手形と区別される。
(2)白地手形とはならない。単に受取人欄の記載を抹消したに過ぎず,受取人欄に補充する権限を与える意思を伴わないからである。

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