【解答】
1(1)成立後の会社が本件費用を負担するためには,発起人A(以下,Aという。)が支払ったこれら費用が,「設立に関する費用」(会社法(以下,略す)28条4号)に当たる必要がある。そこで,会社設立手続きにおける発起人の権限及びその範囲が問題となる。
(2)設立中の会社は会社の設立を目的とするので,設立中の会社の権利能力の範囲は会社設立を目的とする行為に限定される(民法34条類推)。発起人は,会社の設立企図し,これを執行する機関である。
そこで,発起人が,会社設立手続中に行うことができる権限とは,会社設立のために直接必要となる行為のみならず法律上あるいは経済上必要とされる行為である。もっとも,発起人の権限が際限なく拡大して濫用の恐れがあると同時に成立後の会社の財産的基礎が危うくなる。そこで,会社の設立のために法律上あるいは経済上必要ではない開業準備行為については発起人の権限の範囲ではなく,成立後の会社に効果帰属しない。また,定款に記載されない発起人の当該行為は,原則として発起人の権限の範囲外として,成立後の会社に効果帰属しない(28条柱書)。
(3)本問では,Aが行ったB及びCとの取引はいずれも会社設立のために経済上必要な行為である。いずれも設立事務を行うためのものであり,会社設立を円滑に進めるために経済上必要となるからだ。設立事務所を行う事務所の賃貸期間及び補助事務員の雇用期間がそれぞれ1か月間という短期間に限定されていることも,これらの行為があくまで甲社設立を目的とした経済上必要な行為であることを裏付けるだろう。
そうすると,Aが行ったB及びCとの取引はいずれも会社の設立のために経済上必要とされる行為なので,甲社に帰属する。
ところが,甲社の定款には「設立費用は80万円以内とする。」との記載があった。そのため,上記行為にかかった費用(60万円と40万円の計100万円)なので,上記行為の効果は甲社の定款に従えば80万円の範囲でしか甲社に帰属しないことになるが,この結論では,B及びCの債権回収を不当に阻害することになり,彼らの取引の安全を害することになってしまう。
(4)会社の定款はあくまで会社内部の規範である。そうすると,会社外部の者(会社債権者等)は,定款の記載を超える額の取引であることを知っていながらあえて取引応じたというような特段の事情のない限り,定款に拘束されるべきではない。そのため,こうした特段の事情がなく,会社の設立のために必要な行為であると認められる以上,成立後の会社に有効に帰属するものとすべきである。
2 本問の場合,B及びCに上記特段の事情は認められない。したがって,B及びCは,甲社の定款に拘束されることなく,それぞれ自己の債権額の支払を甲社に求めることができるので,甲社はこれを拒否することができない。
よって,甲社は,本件費用を負担する必要がある。 以上
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