【設問】
次の記述の正誤を,理由と共に答えなさい。
課税関係においては,租税法律主義の厳格な適用を貫かねばならないので,納税者は常に課税当局側の判断に従った納税をしなければならない。
【出典】
短答式試験18-25イ
【分析の視点】
(1)原則論の確認及び修正の要否・理論構成
本問は,問題文こそ短いが,短答式論文式いずれにおいても出題可能性の高い論点を含む。
解答に際しては,「原則・修正(例外)」の流れを充分に意識しよう。原則論を確認し,その原則論を維持すべきかどうか。背後にある対立利益を明らかにしつつ理論構成をすることが大切だ。具体的には,「法律による行政の原理」が常に貫かれるべきか,例外はないのか,あるとすればどのような場合に許されるのか等といった議論の流れをイメージしてみよう。その際,具体的な事案を想定することも有用だ。
(2)ベースとなる判例
本問のベースとなる判例は,最判昭62・10・30である。「原則・修正(例外)の流れを意識しよう」と先述したが,安易に原則を修正することは避けるべきだろう。憲法でも学ぶように,租税法律主義の原則は,国家(行政権)の恣意的な権力行使を防止するためにも厳格に維持されなければならないからだ。また,「社会状況がこうだから」「この人がかわいそうだから」といった理由で安易に原則論を修正すれば,法理論が崩壊してしまう。この点,最高裁は,昭和62年判例においてあくまで租税法律主義という「法律による行政」の原理が厳格に貫かれるべき立場を堅持しており,明確性・安定性が求められる租税関係における信義則の適用(=個別・具体的対応)について,きわめて慎重な姿勢を取っていることに注意が必要だ。そのため,「納税者の信頼保護の要請」だけを理由に安易に原則論(租税法律主義や平等原則)を修正すべきではないだろう。
(3)判例の判断枠組みを利活用して解く
最判昭62・10・30の判断枠組みは,予備試験論文式試験平成27年度行政法[設問2]において参考にすることができる。ただ,この予備27年度[設問2]は,租税関係ではなく,河川法が適用の有無が議論されたケースである。そのため,同問において問題となる利益(原告側と対立する利益)は「人の生命身体の安全」である。それゆえ,同問では,課税の場面において問題となる対立利益とは異なった性質をもつ利益が対立利益としてクローズアップされる点に注意が必要だ。この点を踏まえ,予備27年度[設問2]において昭和62年判例の射程が及ぶかどうかを検討してみよう(具体的には,予備27年度の事案において,原告側の「信頼」を保護することの要請が,「人の生命身体安全」を上回るかどうか)。なお,下記③に示す「行政行為と信義則」に代表される「行政行為と一般原則」も,短答式はもちろん論文式試験においてしばしば出題される重要事項である(予備試験論文式試験平成28年度等を参照)。
【確認すべき知識】
➀租税法律主義(憲法84条)・納税者間の公平・平等の原則(憲法14条1項参照)
(→憲法の関連問題も併せて参照)
②最判昭62・10・30の判断枠組み
③行政行為と信義則(行政行為と一般原則の法理の関係)
(→短答式では,「行政上の法律関係における一般的な法原理」として,しばしば登場する。)
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