民法

民法No.85[事例式演習]解説編/ガンジーの言葉(2)

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君の夢は何か。目的といってもいいであろう。それを達成するために、手段として目標がある。予備試験・司法試験の受験生なら合格である。つまり、「夢(目的)をしっかりもっていれば、いい手段を取ることができる。そして、必ず合格する」ということである。この辺のことを、インド独立の父であり、弁護士でもあったマハトマ・ガンジーは、若い人に伝えている。

<ガンジーの言葉(2)>
「あなたの夢は何か。あなたが目的とするものは何か。それさえしっかり持っているならば、必ずや道は開かれるだろう」

▼法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!

夢(目的)があれば、100%、目標(合格)はできる。頑張れ。その際、夢は、なるべく大きい方がいい。

では、昨日の答えを示します。


民法No.85[事例式演習]解説編

1 では,WがMに対して求める事項から考えてみよう。Wは,Mに対して本件土地を明け渡すことに加え,本件建物を壊して収去することを求めるだろう。Wは,Mに対して「ボクがKさんから本件土地を買わせて頂いた。移転登記も具備させて頂いた」として,売買契約(555条)により移転した所有権(176条,206条)に基づく建物収去土地明渡請求をする(202条1項・200条1項参照)のである。
 この点,本件土地は,Kを起点としてMWそれぞれに二重譲渡されているが,Wが所有権移転登記を具備したため,Wが本件土地の所有権を確定的に取得することになる(177条)。一方,Mは本件土地の所有権を確定的に喪失する。これはM,困った。
 Mとしては,Wが登記の欠缺を主張するに正当な利益を有する者つまり177条「第三者」に当たらないと反論したいところだ。ここでは,177条「第三者」の定義を,同条の趣旨から丁寧に導こう。解釈により導かれた「第三者」の定義に照らし,本件についてみる。
Wが同条「第三者」(=相手方の登記の欠缺を主張するに正当な利益をもつ者)であることを否定するような事情(背信的悪意者である事情)は存しない。確かにWは,事実をロクに調査もせずKの言い分を「真実らしい」と安易に判断したという落ち度はある。Mを本件土地から追い出すことも想定していただろう。しかし,Wが本件土地をKから買い,Wに先んじて移転登記を具備したのは,Mに嫌がらせをするためではない(信義則違反的あるいは権利濫用的な事情はない)。そもそも仮にKの言い分が真実であれば,Mは「本件土地に居ちゃいけない」者だから,Kの言い分を信じたWにおいては,Mの権利を害する認識はなく,むしろ自分の権利を十全化したいとの認識だ。
 したがって,Wは,177条の「第三者」なので本件土地の所有権はWに帰属する。
2 本件土地の所有権がWに確定的に帰属するとすれば,Mはこの土地をMに明け渡さねばならない。加えて,Mは,自己が所有する本件建物まで収去すべきことになる。
この点,かつてMは,本件土地について建物所有を目的とする借地権者であり(借地借家法1条,2条1号2号)対抗要件も具備していた(借地借家法10条1項)。その後,MはKから本件土地を買い受けたため,先の借地権は混同により消滅した(179条1項本文準用。520条本文でもよいが,対抗要件を具備した借地権は,地上権に類似し物権化した側面ももつので,本稿では179条1項本文を準用する)。そのため,Wが本件土地を買い受けた時点で,MはKに対抗可能な土地利用権をもたなかった。したがって,原則としてMは,Wに対して本件土地を明渡し,本件建物も収去すべきことになる。 
しかし,このまんまの結論でいいのだろうか。本件建物の収去義務まで負うMは,大きな不利益を被る。建物収去による社会経済的不利益も大きい。もちろん,Mが「もういいや」と言えばそれでよいが,おそらくMだったら粘るはずだ。
確かにMにも落ち度はある。なぜならMは,本件土地を買い受けたにもかかわらず所有権移転登記も具備せずボケーっとしていたからこそ,「勝負師」Kにその隙を突かれる形で本件土地をWに譲渡され,Wの所有権移転登記具備により所有権を確定的に喪失してしまったからだ。とはいえ,Wもまた,Kの言い分のみを真実と断定して本件土地を手に入れた。Wは,背信的悪意者とまでは言えないだろうが,売買契約時に本件土地上に本件建物(Mの保存登記付き)があることは認識できた。Wにこのまんま本件土地を何らの土地利用権を対抗されることもなしに確定的に取得させるのはどうも・・という感じだ。先に述べたMの不利益の大きさからすると,Mの利益保護可能性を探り,MW両者の利益調整を図りたいところだ。
ではどうするか。上記の利益調整だけでは法学的な解答にならない。「生の利益同士」をぶつけて適当に落としどころを作っているだけだからだ。以下では,Mを保護するための理論構成として考えられる構成のうち2つ(①②)をピックアップしてみたい。
3(1)Mを保護するための理論構成①(混同の例外の準用)
この点,解答例としてよくあるのが,Mにおいて「混同の例外」に類似する状況が看取できるとして,179条1項条ただし書を準用してMの借地権は消滅していなかった,という構成である。この構成は,Mの借地権保護の要請から,同条ただし書の趣旨がMにも及ぼされるべきという価値判断を基にする。
しかし,179条1項ただし書は,所有権と他の物権が「同一人に帰属したとき」(同本文)において「例外的に,当該物権を存続させる」(=「消滅」させない)旨を規定するのであって,帰属した後(=他の物権が消滅した後)になって「いったん消滅した当該物権を,消滅していなかったことする」ための規定とはいえないのではないか。また,いったん消滅した物権を,事後になって当事者の意思に基づく手続的な権利行使の介在なし(具体的に言えば,Kとの売買契約を解除することなく)「やっぱり消滅していなかった。あるんだ」として「復活」させることができるとする点もしっくり来ない。本件でいえば,たとえMにおいて所有権はなくとも,Kとの売買契約を維持したまま借地権を復活させることになる。何となく理論的な説得力に欠け,ご都合主義的な感があるような気もする。さらにこの構成は,Mの利益保護の必要性のみを強調し,「借地権は実は消滅していなかった」ことにより生ずるWの不利益をフォローする視点に乏しい。おそらく,この混同の例外構成は,最判昭和40.12.21(事案は本問に類似。以下「40年判例」)の「不動産の賃措人が賃貸人から該不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記をしないうちに、第三者が右不動産を二重に譲り受けてその旨の所有権移転登記を経由したため、前の譲受人たる賃借人において右不動産の取得を後の譲受人たる第三者に対抗できなくなつたような場合には、一たん混同によつて消滅した右賃借権は、右第三者に対する関係では、同人の所有権取得によつて、消滅しなかつたものとなると解するを相当とする」(下線部:筆者。以下同)に依拠したものと考えられる。実際,この40年判例を混同(520条本文)の例外の項目で紹介している基本書もいくつかある。
しかし,先にも述べたように,混同の例外規定である179条1項ただし書は,そもそも当該権利を例外的に「消滅」させず,「存続」させる規定である。仮に40年判例が混同の例外構成を採用したのであれば,わざわざ「消滅した」とせず,「例外的に消滅しない」と表現するのではないか。また,179条1項ただし書は,「同一人に帰属したとき」(同本文)に例外的に混同が生じないとする規定であって,「帰属した」後になって保護の必要が生じたことを理由に一度は「消滅した」物権を遡及的に復活させる規定とは読み難いように思う。この点,上記判例は,賃借権について「消滅しない」とはせず「消滅しなかつたものとなる」として,遡及効的な表現をしている。
こうして見ると,たとえ179条1項ただし書を「準用」あるいは「類推」する形であっても,「第三者が現れたので,やっぱり賃借権で保護されるべき。いったん消滅した賃借権を実は消滅しなかったこととする」という構成には疑問が残る。
他方,最判平46.10.14(以下「46年判例」)は,「所有権と賃借権とが同一人に帰属するに至つた場合であつても」「民法一七九条一項但書の準用により、賃借権は消滅しないものと解すべきである」とした。「賃借権は消滅しない」とした上,その根拠を179条1項ただし書を準用に求める旨を明示したのだ。つまり混同の例外構成を採用した。これに対し,40年判例は,先述のように賃借権の消滅自体を認めており,さらに適用条文が示されていないので,46年判例のように混同の例外構成を採用したとは断定できない。また,本問の出題趣旨においても,「混同」について明示しているわけではない。先述のようにいくつかの基本書は,40年判決を「混同の例外」として紹介しているものもあるが,我妻=有泉民法コンメンタールでは,慎重な言い回しを用いて,40年判例が「混同の例外」との断定を避けている。そのため,本問について「混同の例外構成を採らないと合格答案とは言えないのでは・・」と思う必要はない。考えられる構成の一つとして,あくまで参考程度に捉えておけば充分だろう。むしろこの構成だけが正しいのだと思い込んでしまうことで,事案における当事者の言い分・利益調整に沿ったより適切な理論構成を探求する機会を失うことがないようにしたい。
(2)Mを保護するための理論構成②(解除権行使による借地権復活)
 本件土地の所有権帰属争いに敗けたMは,Kとの売買契約を解除したい。Kとしては,Mに登記を移転できなかったのだから,登記を移転する義務が履行不能である(543条)。しかもKの責めに帰すべき事由もある。そのため,MがKとの売買契約の解除権を行使できることに問題はない。Mの解除権の行使により,KM間の売買契約は,原状に復することになる(545条1項本文)ので,混同により消滅したMの借地権(KM間の本件土地における賃貸借契約)が復活することになる。ここで,KからWに賃貸人たる地位の移転が生じていることにも注意しておくべきだろう。
 そうすると,Mとしては,Wに対し,本件土地の賃借権(601条)を主張することになる。Mは元々対抗要件を具備した借地権(借地借家法10条1項)をもっていたのであり,KW間の売買契約により賃貸人たる地位はKからWに移転することになるからである。これに対して,Wは「ボクはMの解除権の行使による効果の影響を受けない。だってボク,545条1項ただし書「第三者」だからサ。だから,Mに本件土地を貸す必要ないよね」と反論する。しかし,このWの反論は認められないだろう。Wは,別にKM間において解除の対象となった法律関係(売買契約)を基礎としてKから本件土地を買ったわけではなく(Wは,あくまでKM間の売買契約の帰趨に間接的な影響を受けるに過ぎない),上記「第三者」に当たらないからだ。Wは,Kから本件土地を買い受ける時点において,Mの所有権保存登記が具備された本件建物の存在を認識しえたのだから,本件土地につきMから借地権を対抗されてもやむをえないだろう。ところで,先に述べたようにWは177条「第三者」には当たるが,545条1項ただし書「第三者」には当たらない。この両者の対比構造に注目してみるのも面白い。
 結局WはMに手痛い反撃を食らい,Kから梯子を外された格好となった。WはKに振り回されっぱなしだ。そんなWを見ると,「自由になりたくないかい」と声を掛けてやりたくなるのが自然だろう。ここに至ってもなおWを救済する手段はないか。
Wとしては,「まさか本件土地にMの借地権が付いていたなんて・・」ということで,566条2項を根拠にKとの売買契約を解除し,ついでにMに対する賃貸借契約からも解放されたいところだ。しかし,このWの主張は,Mとの関係では効力を生じない。先のWと異なり,Mは,Wとの関係において,545条1項ただし書「第三者」に当たる。なぜなら,Mは,KW間の売買契約が解除されるより前にWに対して本件土地の賃貸借契約を主張できる立場を得ており(先述の対抗要件も具備),しかもかかるMの立場は,解除の対象となったKW間の売買契約を基礎とするからだ。
 以上,Wは,Mを本件土地の賃借権者として受け入れるほかないだろう。Wの救済は,Kに対する損害賠償請求で図るほかないことになる。


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