行政法

行政法ドリルNo.6[解答編]


次の【事例】を読み,添付の[資料]を適宜参照の上【設問】に解答せよ。

【事例】
P県知事は,採石法(以下「法」という )の運用に関して運営要領を定め,その中で採石業の登録が必要な場合について,基準(a)を設けている。
基準 (a):法第32条にいう「採石業を行おうとする者」とは,営利,非営利の目的のいかんを問わず,岩石の採取行為を反復継続的に行おうとする者をいう。

【設問】
(1)「処分」(行政事件訴訟法3条2項)の定義
(2)行政手続法にいう「申請」の定義
(3)行政手続法にいう審査基準の定義
(4)P県知事が定めた基準(a)は,行政手続法にいう審査基準に当たるか。
【解答】
(1)「処分」の定義公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められている行為をいう。➀公権力性②直接具体的法効果性に整理できる。
⇒「公共団体」を「地方公共団体」としないよう注意しよう。「処分」は,公権力の主体が行う行為なのだから,「公共団体」が「地方公共団体」に限定されることはない。
(2)行政手続法にいう「申請」の定義:法令に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう(行政手続法2条3号)
⇒法令に基づき,許認可等の授益的処分を求める行為であって,行政庁に応答義務が課されているものと押さえておこう。
(3)行政手続法にいう審査基準の定義:申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう(行政手続法2条8号ロ)。
(4)基準(a)について:行政手続法にいう審査基準に当たらない。
審査基準とは,上記(3)で述べたように,「申請」の認否における判断基準である。「申請」とは,許認可等の授益的処分を求める行為を要素とする。
この点,採石法(以下「法」という。)32条の2第1項によれば,登録を受けようとする者は,申請書を都道府県知事に提出すべきことから,「申請」を必要とする。このように「申請」によって登録を求めることから,登録は,許認可等と同じく授益的な処分に当たるかに見える。そうすると,基準(a)は,審査基準であるとも思える。
しかし,採石法32条の3第1項によれば,登録とその通知によって生ずる効果は,採石業者登録簿への登録という効果である。採石業者登録名簿へ登録されたとしても,それによって採石業を行おうとする者が直接採石業を営む権利を得るわけではない。そのため,同登録においては,採石業を営むことができるといった具体的な権利の発生まで予定されておらず,名簿に名前が記載されるという事実上の効果をもつに止まる。また,登録を拒否された場合の採石法32条の4第1項も,何ら具体的な権利変動について規定していない。
したがって,登録に「処分」性は認められない。
以上より,登録に「処分」性が認められないため,登録のための申請は,実質的には行政手続法上の「申請」とは異なる意味をもつといえる。
よって,登録をしようかどうかを判断するための基準が行政手続法の審査基準に当たることはない。

[資料]
(参照条文)採石法
(登録)
第32条 採石業を行おうとする者は,当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。
(登録の申請)
第32条の2 前条の登録を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない。
一~三 (略)
2 前項の申請書には,前条の登録を受けようとする者が第32条の4第1項第1号から第4号までに該当しない者であることを誓約する書面その他の経済産業省令で定める書類を添附しなければならない。
(登録及びその通知)
第32条の3 都道府県知事は,第32条の登録の申請があつたときは,次条第1項の規定により登録を拒否する場合を除くほか,前条第1項各号に掲げる事項並びに登録の年月日及び登録番号を採石業者登録簿に登録しなければならない。
2 (略)
(登録の拒否)
第32条の4 都道府県知事は,第32条の2第1項の申請書を提出した者が次の各号のいずれかに該当するとき,又は当該申請書若しくはその添付書類に重要な事項について虚偽の記載があり,若しくは重要な事実の記載が欠けているときは,その登録を拒否しなければならない。
一~五 (略)
2 (略)
(登録の取消し等)
第32条の10 都道府県知事は,その登録を受けた採石業者が次の各号のいずれかに該当するときは,その登録を取り消し,又は六箇月以内の期間を定めてその事業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
一~六 (略)
2 (略)

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