【設問1】
取締役会設置会社における代表取締役の代表行為に関する次の記述について解答せよ。
(1)取締役会において代表取締役の代表権に制限が加えられていたとする。
➀この場合の代表取締役の行為の対外的な効力につき原則どのように解すべきか。
②代表権の制限の存在につき善意の者との関係では,代表取締役の行為はどうか。
(2)会社法の規定に基づき取締役会の決議を経なければならないにもかかわらず,これを経ないで代表取締役が会社を代表して第三者と契約を締結したとする。
➀この場合の代表取締取締役の行為の対外的な効力につき原則どのように解すべきか。
②第三者との契約が無効となる場合はどのような場合か。
③取締役会決議を経ていないことを理由とする代表取締役の取引を無効とした場合,かかる無効の主張権者は誰か。
【解答】
小問(1)
➀原則として有効である。代表取締役は,会社を包括的に代表する権限をもつ(会社法349
条1項本文,4項)。代表権の制限は,あくまで取締役会が独自に付した内部的な制限であ
る。そのため,取引の相手方においては,制限の存在を知ることは困難である(可視性に乏
しい)。したがって,取引の安全を重視すべく原則として有効とすべきである。
では,相手方において,制限の存在を知らなかったことにつき過失があった場合はどうか。
内部的な制限は法定された制限事項(362条4項)と異なり,相手方において調査・把握が
困難であることが通常である。そのため,内部制限について知らなかったことにつき軽過失
ある者も保護される。
②有効である(会社法349条5項)。なお,後述する会社法の規定に反する場合は,会社法
349条5項の適用はない。
【解答】
小問(2)
➀原則として有効である。確かに,会社法362条4項が要求する取締役会決議の趣旨から
すれば,会社利益保護の見地から原則として無効とすべきかに見える。しかし,法定された
取締役会決議といえども,相手方にとってみれば会社内部の意思決定であり,認識すること
が容易とまではいえない(すなわち一定の調査を経ることにより把握される)。また,代表
取締役は会社を包括的に代表する権限をもち(会社法349条1項本文,4項),相手方はか
かる代表権限を信頼するだろう。
そうすると,原則として有効とすべきである(上記【解答】(1)➀も参照)。もっとも,既
に述べたように会社法の規定(362条4項)に反するので,代表権に対する内部的制限の場
合と異なり相手方が不知であることが通常とまではいえない。例えば,取引額が高額であっ
たり,取引の客体となる財産が不動産等といった重要なものであったりすれば,相手方とし
ては,「ちゃんと会社内部の決済を経たのだろうか」と考え,調査・確認するものである。
②第三者において,取締役会の決議を欠いたことについて悪意又は有過失(軽過失含む)の
場合である。
⇒心裡留保(民法93条)に類似した構成である。最判昭和40・9・22が取る構成とされ
る。 ただ,同判例は,心裡留保である旨明示しているわけではない。確かに,内部的に取
締役会決議を欠いたことと対外的に包括的代表権限があるとして振舞ったことの間に「ズ
レ」がある点を見れば,心裡留保の構造に類似しているともいえるだろう。ただ,取締役会
決議という必要な手続きを欠いたことを内心の動きと類似すると見ることには,やや無理
があるような気がしないでもない。すなわち,心裡留保という概念を持ち出すためには,表
意者の内心(本来の意図)の存在が認められる必要がある。もしかしたら,同判例もこのよ
うなことを重視しあえて条文上の根拠を示さなかったのだろうか・・?
ちなみに,相手方の悪意又は有過失については,会社側に立証責任がある。前述の原則論
からすれば当然だろう。
③原則として会社のみである。例外的に会社以外の者が無効を主張できる場合もある。それ
は,当該会社の取締役会が当該取引につき無効を主張する旨の決議をしているなどといっ
た特段の事情のある場合である。
【設問2】
監査役設置会社において,株主が取締役の責任を追及する訴えを提起した。
(1)この場合,株主は誰に対して提訴請求すべきか。
(2)仮に株主が,代表取締役に対して提訴請求したとする。
➀この場合,提訴請求は原則として適法か。
②この場合,提訴請求を常に不適法とした場合,どのような不都合が生じるか。
③この場合,提訴請求を適法とする法律構成はどのようなものか。
【解答】
小問(1)
監査役である(会社法386条2項1号)。
【解答】
小問(2)
➀原則として適法ではない(不適法である)。上記の会社法386条2項1号からすれば,監
査役を相手とすべきである。
②例えば,提訴請求書に記載すべき代表者を,監査役ではなく誤って代表取締役と記載した
場合に提訴請求を不適法として却下した場合,取締役の責任追及の機会をいたずらに逸す
る恐れが生じ,不都合である。
⇒そのため,本来の代表者が提訴について知る機会があれば,適法な提訴請求がなされたと
同視すべきではないか。
③会社法847条1項等は,代表訴訟の要件として提訴請求を求める。この趣旨は,会社に
対して役員に対する責任追及の訴えを提起することの要否及び当否について検討する機会
を与える点にある。かかる趣旨からすれば,本来,提訴請求を受ける者において提訴請求の
内容を正確に把握した上で,訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったといえ
るときは,適法な提訴請求があったものといえる。
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