【設問➀】
株式無償割当てに関する次の記述について解答せよ。
1.株式無償割当ての定義
2.株式無償割当ては,当該株式会社に対しても行うことができるか。
3.株式無償割当てが行われた場合,当該株式会社の資本金は増加するか。
4.株式無償割当てが行われた場合は,株式分割の場合と異なり,端株が生ずることはないか。
【解答】
1 株式会社が,株主(種類株式発行会社にあっては,ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の株式の割当てをすることをいう(会社法185条)。
2 できない(186条2項「当該株式会社以外の株主」)。
3 増加しない。資本金の額は,株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額をいう(445条1項)。ところが,株式無償割当てにおいては,上述のように新たな払込みが行われない。そのため,資本金の増加が認められない。
4 株式無償割当てが行われた場合も端株は生じうる。株式無償割当ては,株主(当該株式発行会社を除く)の保有する株式の数に応じて行われるため,どうしてもハンパな数字が生ずることは避けられないであろう(186条2項)。
【設問②】
匿名組合に関する1~4の記述の正誤及び5について解答せよ。
1.匿名組合員は,裁判所の許可を得ることができれば,営業時間内外にかかわらずいつでも営業者の業務及び財産の状況を検査することができる。
2.匿名組合員は,金銭その他の財産のみをその出資の目的とすることができるので,営業者の行為について,第三者に対して義務をもたない。そのため,匿名組合員は,営業者がその営業において生じさせた債務について弁済する責任を負うこともない。
3.匿名組合員が後見開始の審判を受け,又は除名された場合,営業者は,当該匿名組合員にその出資の価額を返還しなければならない。
4. 匿名組合員は,自己の氏若しくは氏名を営業者の商号中に用いること又は自己の商号を営業者の商号として使用することを許諾したときは,債権者の利益を保護すべく,その使用以前に生じた債務についても,営業者と連帯してこれを弁済する責任を負う。
5.匿名組合員の出資が損失によって減少した場合,匿名組合員が利益の配当を請求するために必要なことは何か。
【解答】
1 誤っている。
匿名組合員が「裁判所の許可を得」て「いつでも」営業者の業務及び財産の状況を検査できるのは,「重要な事由があるとき」に限られる(商法539条2項)。裁判所の力を借りたからといって,当然に財産等の状況を検査できるというものではない。
2 誤っている。
匿名組合員は,営業者の行為について第三者に対して義務をもたない(商法536条4項)。このことは,匿名組合契約の目的(「相手方の営業のための出資」と「営業から生ずる利益の分配」・商法535条)からも納得できる。そのため,匿名組合員は,営業者が生じさせた債務についても弁済する責任を負わないのが原則だろう。
しかし,例外的に弁済責任を負う場合がある。具体的には,匿名組合員が自己の氏名等を商号中に使用することを営業者に許諾した場合,その使用以後に生じた債務について当該匿名組合員は営業者と連帯してその債務を弁済する責任を負う(商法537条)。
3 誤っている。
匿名組合員については,民法上の組合員と異なり「除名」が予定されていない。また,商法541条2号が規定するように,匿名組合員について後見開始の審判が行われたとしても匿名組合契約は終了しない。そのため,匿名組合員に対する「除名」と「後見開始の審判」はいずれも匿名組合契約の終了事由ではないので,商法542条「匿名組合契約が終了したとき」に該当しない。したがって,以上の事由が認められたとしても,営業者が匿名組合員にその出資の価額を返還する必要はない。
4 誤っている。
上述2の商法537条によれば,自己の氏名の使用を許諾した匿名組合員が営業者と共に弁済の責任を負うのは,当該氏名の使用「以後」に生じた債務についてである。そのため,使用以前に生じた債務についてまで匿名組合員が弁済責任を負うことはない。
5 商法538条が規定するように,出資が損失によって減少した場合における匿名組合員の利益配当請求が認められるためには,その損失のてん補が必要である。
【設問③】
取締役会設置会社における株式会社における剰余金の配当につき,次の記述の正誤を解答せよ。
定款の定めに基づき,一事業年度の途中において1回に限り取締役会決議によって剰余金の配当をする場合には,その配当財産は,金銭でなければならないと同時に当該株式会社は会計監査人設置会社でなければならない。
【解答】
誤っている。
会社法454条5項が規定する「中間配当」の問題である。「中間配当」とは,取締役会設置会社において,一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当(配当財産が金銭であるものに限る。)をすることをいう。取締役会設置会社である必要があるが,会計監査人設置会社である必要はない。
なお,中間配当については,それができる旨を定款で定める必要がある。すなわち取締役会決議があったからといって(定款に中間配当の定めがなければ)当然に中間配当が可能となるわけではない。
【設問④】
持分会社の人事に関する下記1,2の正誤を解答せよ。
1.持分会社においては,出資義務を履行しない社員を除名することができるが,除名のために必要な手続きは,対象社員以外の社員全員の同意である。
2.持分会社においては,業務を執行する社員(以下,「対象業務執行社員」という。)について持分会社の業務を執行し,又は持分会社を代表することに著しく不適任なときは,対象業務執行社員以外の社員の過半数の決議に基づき,訴えをもって対象業務執行社員の業務を執行する権利又は代表権の消滅を請求することができる。
【解答】
1 誤っている。
出資義務を履行しない等の狼藉社員を除名することは可能である(法定退社としての除名・会社法607条1項8号)。除名のためには,対象となる狼藉社員以外の社員の「過半数の決議に基づき」,「訴え」をもって裁判所に請求する手続を履践することが必要なのである(会社法859条柱書)。そのため,(対象社員以外の)社員全員の同意をもって除名することはできない。
法定退社事由としての「総社員の同意」は,「除名」とは別事由として規定されている(会社法607条1項2号)。両事由を混同しないよう注意が必要だ。
2 正しい。
会社法860条1項2号である。859条が規定する手続きと同様の手続きが履践される必要がある。両規定について併せて押さえておこう。
【設問⑤】
持分会社の計算に関する下記1,2の正誤を解答せよ。
1.持分会社においては,株式会社と異なり,利益配当は予定されていない。
2.持分会社においては,合同会社を除き,資本金の額の減少において債権者異議手続は予定されていない。
【解答】
1 誤っている。
持分会社においても利益配当は予定されている(会社法621条~623条)。
2 正しい。
合同会社を除く持分会社(合名,合資)における資本金減少については,会社法620条に規定があるが,債権者異議手続は予定されていない。これら持分会社の債権者は,社員から債権回収できる可能性をもつので,会社財産にそこまで血眼になって執着しなくてよいためだろう。
翻って合同会社における資本金減少については,626条以下に「資本金の額の減少に関する特則」という形で特別メニューが用意されており,その中に「債権者の異議」が置かれている(627条)。合同会社の社員は全員有限責任社員なので,会社債権者は会社財産から債権回収するほかない。そのため,合同会社に無暗に資本金の減少なんかされて会社財産を減らされたら債権者は困っちゃう。したがって,合同会社における資本金減少手続は,例えば知れている債権者に対する各別の催告(+公告)が必要とされている等,それなりに厳格な手続きなのだ。
【設問⑥】
持分会社の社員の責任に関する下記1~3の正誤を解答せよ。
1.未成年者であっても,持分会社の無限責任社員になれる場合がある。
2.持分会社においては,業務執行を行う者は,無限責任社員に限られる。
3. 合資会社の社員の有限責任社員は,間接有限責任社員なので,会社の債務を弁済する責任を負うことはなく,会社が主張することができる抗弁をもって会社の債権者に対抗することができる。
【解答】
1 正しい。未成年者であっても,持分会社の無限責任社員となることが許されたのであれば,同社員に就任可能だ。その際,当該未成年者の社員の資格に基づき行為については,行為能力者とみなされる(会社法584条)。
2 誤っている。業務執行社員を置く場合,その旨を定款で定める必要がある(会社法590条参照)。その旨の定款の定めがない場合,社員が業務執行を行い(590条1項),社員が二人以上であれば,そいつらの過半数をもって決定される(590条2項)。
3 誤っている。
合資会社を構成する社員として,有限責任社員の存在が予定されている。
合資会社における有限責任社員の責任形態は,必ずしも間接有限責任とは限らない。持分会社に対する出資が未履行であれば,当該出資の価額を限度として会社の債務を弁済する責任を負う(会社法580条2項)からだ。
社員が,持分会社が主張することができる抗弁をもって当該持分会社の債権者に対抗することができるのは,以上のように社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合である(会社法581条)。
このように,「有限責任」が,そのまんま「間接有限責任」であるわけではないことに注意しておこう。
なお,合同会社の社員の責任は「間接有限責任」である。合資会社の有限責任社員との異同を整理しておきたいところだ。
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