民法

民法No.79[事例式演習]解答編/リンカーンの言葉(2)

法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!ある目標を達成するために、進みは遅くても仕方ない場合がある。しかし、引き返すことは、あってはいけない。このことは、社会のこと、個人のこと、すべてに通じる。この点について、アメリカ合衆国の第16代大統領、エイブラハム・リンカーンは、次のように言っている。

<エイブラハム・リンカーンの言葉(2)>
「私は歩みが遅いが、引き返すことは決してしない」

▼法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!リンカーンは、民主主義の基礎を主張し、奴隷解放などの業績で歴史的に高く評価されている。

それでは、昨日の答えを、示します。


民法No.79[事例式演習]解答編

事例を見ると,Aは,子Bの財産である甲土地を,無断でCに売却したようだ。売却理由は,AのDに対する債務の弁済のためだ。妻までこれを了解している。事情はあろうが,自分の子供の財産を売却してまで自分の債務の弁済って・・。ここまでするAは,取り立てのキツいウシジマくんからカネでも借りたのだろうか。この場合,タイトルは何だろう。「親権濫用くん」とか?・・。あまり面白くなさそうだな。「洗脳くん」や「フリーエージェントくん」に比べると,いまひとつタイトルにインパクトがない。そもそもBは18歳の子供なのに何で土地をもらえるの?どんなウチだよ・・等々、この問題自体に結構なツッコミ所があるのだが,それをしても問題解析には役立たないのでこの辺りで止めておく。ただ,本試験の問題は,よく見るとリアル社会なら相当ヤバい事情がさらっとしかも取り澄まして脱色された形で書かれていて、それが却って興味を誘うよね。では,本編のはじまりはじまり。

本編(問題文解析)

花子さん,Bは,Cに対し甲土地の返還を請求することができますか。
できますね。
なるほどあってますね。なぜそのように考えるのでしょうか。
うーん,実はよく分かりません。カンです。
それじゃダメですよ。事例に沿ってしっかり考えてみてください。・・・アレ?ところで,なんで我々はここにいるんですか・・。もしや作成者が手を抜いて,我々に解説を任せるつもりでは・・?

・・以上のような,某人気ブログで日々展開されているダイアローグ解析を真似しようとしたが,これ以上無断でお二人にご登場願うわけにもいかず(スク東先生すいません),従前通りモノローグ解析を行うことにする。
➀設問1(1)について
Aは,子Bの財産である甲土地を,本音では売却代金をDへの債務弁済目的でありながら,表向きは親権者(818条1項,824条本文)としてCに売却している。こうした事情から思いつくのは,「親が子の財産を勝手に処分していいのか。無効な処分ではないか」だ。この問題を解決する手段として,まずは「常連さんにご挨拶」(BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」より)である。具体的には,AとBの利益相反の可能性を指摘し,関連する826条1項を指摘する。まさに「常連さん」である。しかも皆が大好きな条文だ。Aは妻の了解も得,特別代理人の選任も経ていないであろうから,このまんま行くとA夫婦の行為は,無権代理行為と同じく無効である(113条1項)。
この826条1項の解釈論をどこまで展開すべきか。この後多くの問題が控えていることを考えると,「ぼちぼちしてらんねえ」(長渕剛語録)である。とはいえ,問題の所在を一言位は指摘しておこう。「利益相反の意義が酩酊・・もとい明定されていない」という程度で充分だ。しっかり指摘すべき問題の所在は,当該事例の固有事情から導かれるものだから,本問ではやはりそちらに力を投入すべきだろう(後述の設問1(2))。
826条1項の趣旨も,余裕があれば指摘しておこう。826条1項の趣旨は,親権濫用行為から子の財産的利益を保護することである。
一方,相手方Cとしては,「お前らの家庭内の事情なんて知らないよ」と言いたい。その通りだ。家庭内の事情は,あまり表に出すものではなく,また可視性に乏しい。「家庭内の事情は容易に分からない」のである。このことは,会社法でよく登場する銀行と企業が大口の融資契約をするケースと比較してみると分かりやすいかもしれない。銀行としては企業の取締役会等の決議を正当に経たかどうかを調査するだろうし,調査すべきだろう。つまり,銀行の融資担当者が「あの会社,閉鎖的です。内情が分からんのであります。これ以上詮索するのも気の毒だし」とすることは,取引通念から許されない。対して,826条が想定するケースとは,親子関係(家庭内)における固有事情をいちいち調査することが難しい(家庭内の事情はプライバシーにも関わり,可視性に乏しい)がゆえ,相手方の取引の安全をより重視させようというものである。そうすると,利益相反の概念とは,親子関係の内部事情に左右されない外形的客観的な基準によるべし,ということになる。
本件の場合,Aは対外的にはBの親権者ぶって(法定代理人として(824条本文))Cに甲土地を売ったのだから,上記基準に従えば,AB間に利益相反はないということになる。
しかし・・これでいいのか。このまんまではBはAに害されっぱなしである。いくらAが親権者だからといって,子であるBの財産を,よもやテメエがこしらえた債務の弁済のために犠牲にしていいという法はない。ましてやCは,Aのこうした事情を知ってったっていうじゃないか。Bを保護するための手段はないのか。ある。93条ただし書類推適用だ。これも皆が大好きな条文だ。AがBに無断で甲土地を売ったという構図(親権濫用の構図)は,内心的意思と外形的な意思表示に意図的なズレを生じさせている構図(心裡留保の構図)にそっくりということで,類推の基礎がある。ここで,「直接適用(=そのまんま(東)適用)の可否」について言及すべきか。本件ではしなくてよいだろう。本件の事例を見る限り,直接適用の可否を論点として問うようには見えない。後述の設問1(2)と異なり「悩む」べき場所ではない。826条→93条ただし書類推という流れは,既定路線と捉えて構わないだろう。もちろん,「○○という点で構図が似ている。だから類推の基礎がある」と書ければ更によい。よくないのは,既定路線があるにもかかわらず,「悩みを示す」ことばかりが先行し,必要もないのに直接適用の可否を示す姿勢である。「悩み」は,当該事案に沿って示すべきものである。
事情を知るCは,Aのハラを知るまさに悪意者なので,93条ただし書類推適用により保護されることはない。AC間で締結された契約は無効である。よって,Bは,Cに対し,所有権に基づき甲土地の返還を請求することができる。
②設問1(2)について
どうやらCは,Bに甲土地を返還するようである。Cとしては,「土地を貴様に返してやったんだから,俺が払った金返せ」と言いたい。勝手に甲土地を売却されたBが,このような請求をされることは酷のような気もするが、Cが払った金銭は,BC間の売買契約として,いったんはBに帰属したのだ。Cとしては支払った金の返還を契約の相手方であるBに求めるのは、当然だろう。
Cの請求の根拠は,不当利得返還請求権(703条)である。ここで,契約の相手方はBであり,同契約が無効になったのだから,CがBに対して不当利得返還請求として500万円の返還を請求できるのは当然じゃないか、一体何が問題なんだろうか・・?という疑問が浮上する。既に述べたように,理論的にはCはBに問題なく請求できるであろう。しかし,本当にそれでいいのか。問題文の事情を見ると,Bが理論的に得たはずの500万円を,AがDに弁済してしまっている。つまり,実際はBの手元に500万円が来ることはなかったのだ。それでもなおCは,Bに対して「500万円返せ」といえるのか。Bのことを考えれば、それこそ酷じゃないか・・?このように,本問はまさに理論と実際とが衝突する場面であり,「悩むべき」場面である。先述したように,「悩み」とは事例固有から生じ,いずれの結論を出すべきか迷う場面において指摘すべきものである。
本問で,Bに「利益」があるといえるか。AのせいでBの手元に500万円がない以上,Bには現存利益がないという見方もできる。
一方で,Bはこの時点で成人している。Bが成人した場合,Aは,Bに甲土地に関する計算をしなければならない(828条本文)。つまり,AがDに弁済した500万円は,元々はBが所有する甲土地売却の対価なのだから,Aとしては成人したBに返還すべきということだ。そうなると,BはAから500万円返してもらう権利(500万円の支払債権)があるんだから,やっぱりBに500万円が帰属するではないか,また,設問2まで意識すれば,BはDに対して500万円を返還請求できる可能性もある。そうなると,Bには500万円の現存利益があるとして差し支えないのではないか・・となりそうだ。
しかし,こうも考えられる(まだあるか!)。Aは,Dに500万円を返済した後,無資力となっている。おそらくCがBに500万円の返還を求めた時点においてもAは無資力の可能性があり,そうなると上記BのAに対する500万円の支払債権はほとんど実効性を欠く。また,「BはDに対して不当利得返還請求権を行使できるから,Bに利益がある」とするのもどうも違和感がある。違和感の根源は,なぜ,Aのせいで甲土地を犠牲にされたBが,こうした請求を行う負担を強いられ,かつ請求によってゲットした500万円をCに渡さねばならないのか,ということにある。仮にBのDに対する500万円の不当利得返還請求権が確認できたとしても,この請求権は果たしてCに帰属すべきであった500万円が流出したことによる「利益」なのか。Cの500万円流出によって,BはDに対する500万円の不当利得返還請求権ゲットが誘発されたのだろうか。因果関係の存在に疑念が生じるのだ。
しかも,CはAから甲土地を買い受けた時点で,Aのハラの裡を知っていたのだ。つまり,Aが親権を濫用してBの財産を食いつぶすことに悪意であった。そんなCに,あえてBに対して500万円の返還請求することを認めてよいものだろうか。
このように,Cについては,不当利得返還請求権の要件充足性に疑問があることのほかに,不当利得返還請求権を認めるべきでない特段の事情(=Bとの関係で実質的公平に反する事情,あるいは信義則違反や権利濫用)があると言えないか。Cが,A夫婦の無資力まで認識していたかどうかは不明だが,少なくとも子であるBの財産を食いつぶしてまでDに弁済をしなければならない事情については知っていたのだから,Bの500万円が犠牲にされたこと(あるいはA又はDから回収できないこと)のリスクは,Cに負担させたとしてもやむをえないのではないか。
以上のように,設問1(2)はいずれの結論を取る場合にも,対立利益の存在がそれなりに強いので,まさに「悩む」問題である。いずれの結論でも構わないが,きちんと本問固有の事情に言及しつつ理論的な根拠を述べた上で結論を出すべきだろう。よくないのは,単に「Bに「利益」がない」とだけ済ますことだ。


▼法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!今日のリンカーンの言葉は、司法試験・予備試験の受験にも、当てはまる。勉強の進歩は、のろくてもいい。コツコツやれば、必ず栄冠には届く。決して、引き返してはいけない。つまり、諦めてはいけないのである。

さあ!今日も、一歩一歩だが、“爆勉”しよう!行け!絶対合格!!

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