民法

民法No.80[事例式演習]解答編/ホセ・ムヒカの言葉(2)

法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!人間の人生には、いい時も悪い時もある。いい時は、だれしも、喜こぶ。しかし、悪い時には、悲しむ人・逃げる人・改善する人など、種々に分かれる。地球の反対側の国・ウルグアイの元大統領・ホセ・ムヒカは、80才を過ぎた自分の半生を振り返って、次のように言っている。

<ホセ・ムヒカの言葉(2)>
「むしろ、いいことよりも喜びよりも、痛みから多くのことを学んだ」

▼法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!ホセ・ムヒカは、4度の逮捕を経験。祖国の民主化に貢献した。受験生の君も、合格・不合格など、これからの人生いろんなことに遭遇(そうぐう)する。そんな時、痛みからいろんなことを習得したい。

では、昨日の答えを示します。


民法No.80[事例式演習]解答編

 本問のAの甲土地売却目的は,Bの教育資金調達である。真っ当な目的だ。Aの行為は,利益相反でもなければ権利濫用でもない。Aは,一応真人間なのだね。ところが,Aは途中で気が変わり,手にした500万円をBの教育ではなく,Dに対する債務の弁済に充ててしまった。ほとんど横領だ。Aにあっては,500万円という大金を実際手にしたら,それまで抑え込んでいたイゴイズムが解放され,「Bの教育のため」という思いを凌駕してしまったのだろうか。あるいは,親であってもイゴイズムには抗えないということを身をもって示すという逆説的な形でBを「教育」しようとしたのか。いずれにせよAのこうした行動は,「こころ」(夏目漱石・新潮文庫)における「金さ,君。金を見ると,どんな君子でもすぐ悪人になるのさ」という “先生”の言葉を想起させる。
 このケースで,BはDに対して「500万,俺のだから返して。Aのアンタへの弁済ってほぼほぼ横領だから」と主張し,返還を求める。法的な根拠はどうか。
まず,Aは,Dへの弁済時点で無資力に陥った。この事実から,Bが取るべき手段として,詐害行為取消権の行使(424条1項本文)が思いつく。Bは,AD間の弁済を取り消し,最終的にBの下に500万円が返ってくるようにDに対して500万円の支払いを請求する。さらに,DもまたCと同じくAのハラを知っていた。そのため,Dは悪意の受益者なので,保護されない(424条1項ただし書)。これらの他に,弁済が「法律行為」にあたるのか,なぜB自らDに対して500万円を支払うよう請求できるのか(=「責任財産の保全」という詐害行為取消権の趣旨からすれば,500万円をAの下に戻せるに留まるのではないか)等といった問題点も解決しておくべきだ。これらは結論ありきの既定路線だが,忘れずに言及しておこう。
 その他,不当利得返還請求権も思いつく。設問1を意識すれば,現場では,こちらの方が先に思いつくかも知れない。ただ,不当利得返還請求権を検討する際に確認すべき前提は,AのDに対する債務の返済は,法的な根拠に基づいていることだ。本来,Bに文句を言われる筋合いはない。そうすると,Dの500万受領は,はたしてBとの関係で「法律上の原因」を欠くものかどうか,しっかり検討すべきだろう。決して「不当利得返還請求権の趣旨は実質的公平の原理に基づくから,悪意のDの受領は「法律上の原因」を欠く」といった形で済ますべきではない。
 意識するとよいのは,詐害行為取消権との関係である。AD間の弁済に対する詐害行為取消権もBのDに対する不当利得返還請求権もいずれ共にBによるAD間の行為への介入という点で共通する。また,いずれの手段もDに対する責任追及ではなく,あくまで給付請求という点でも共通する。そうすると,不当利得返還請求権を手段として用いる場合,詐害行為取消権との均衡を意識することができる。具体的には,受益者であるDの主観面が問題となるということだ。先に,詐害行為取消権は責任追及ではなく給付請求権としての側面をもつと言った。そうすると,本来,相手方の主観面は問われないはずだ(債務不履行責任や不法行為責任における損害賠償請求権との対比)。しかし,詐害行為取消権は,先述のように他人間の法律行為に対し,第三者がしゃしゃってくる場面である。それゆえ,受益者の悪意は,取引安全の保護と責任財産保全との調整の見地から要求されると整理できる。
本件では,Dが悪意だからこそ,Dに500万円を保持させるべきではなかった。このことは,Dに500万円を保持させておく「法律上の原因」が欠けることと同視できる。さらに,本件でDに対する不当利得返還請求権を行使するということは,AD間の弁済(=ベースとしての法律的根拠=「法律上の原因」あり)に干渉することにほかならない。そうすると,詐害行為取消権行使の場面と同様の利益調整の視点から,不当利得返還請求権を行使する場面でも,受益者であるDが悪意だからこそ,Dに500万を保持させる「法律上の原因」が欠けるということができる。
 他方,即時取得(192条)や手形法上の善意取得(手形法16条2項)の議論を援用することもできる。金銭は抽象的で頻繁に流通する財貨ゆえ,基本的には手元にある金銭は自分に帰属するものの,悪意(又は重過失)の場合にまで帰属させるべきではないということだ。
 以上,いずれの考えを採用するにせよ,大切なことは「法律上の原因」という客観性の強い要件の解釈に,「悪意(又は重過失)」という主観的な要素を入れる理由を押さえることだ。その際,既存かつ類似の制度の議論を応用することも意識してみよう。
 ただ,上記の詐害行為取消権との関係の議論は,なかなか答案上に表現し難く,詐害行為取消権を検討した上で活きてくるという特徴をもつ。本問では,(おそらくだが)両方の手段を検討することまでは求められていないであろう。いずれの手段もそれなりにヘビー級であり,両方検討する時間もないからだ。そうなると,即時取得や手形の善意取得の議論を援用する形で論じた方が現実的だろう。なお,不当利得構成で議論する場合は,「法律上の原因」以外の要件もきちんと検討する。特に因果関係は大切だ。500万円はあくまで金銭という抽象的な財貨であるから,Dとしては,「アンタ(B)の500万円がそのまんま(東)ワタシの手元に渡ってきたわけではあるまい。つまり,アンタの手元から500万円が流出したことによって,ワタシの500万円ゲットが誘発されたことをきちんと明らかにせよ,ということになるね。そこ絶対聞いてるよね,そうだって間違いないって」と言いたいであろうからである。


▼法務省主催の司法試験・予備試験の合格を、決める君よ!君もこれから数十年間、この世、この社会にお世話になるであろう。いろんな局面で、ホセ・ムヒカの言葉を思い出してください。できれば、“喜び”も“痛み”も、面白く、受け止めてほしい。

さあ!今日も、“スコーン”“スコーン”と面白く、“爆勉”しよう!行け!絶対合格!!

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