商法

商法ドリルNo.4[解答編]

 


次の記述について解答せよ。なお,会社法名は省略する。

➀出版業を営むA株式会社は,小規模で同業を営んでいるB株式会社に自らの業務の一部を委託していた。B社では,これまで自らの商号によってその事業を行ってきたものの,仕事を得ることが難しくなってきた。そこで,A社は,B社の代表取締役Cに対し,「A社副社長」の肩書を付した名刺の使用を許諾した。Cは,右名刺を用いて,DからB社の事業に用いている製品を100万円で購入した。しかし,その代金は,Dに支払われなかった。
下記(1)(2)に答えよ。
(1)原則として,A社は,Dに支払債務の履行責任を負うか。
【解答】:原則として,A社は,Dに支払債務の履行責任を負わない。Cは,A社を代表する権限(349条1項本文,同4項)をもたないため,Dとの取引の効果は,原則としてA社に帰属しないからである(民法113条1項)。
(2)Dが,354条を根拠に,A社に代金支払請求を行ったとする。
ⅰ本事例において,A社に354条が直接適用されるか。
【解答】:A社に354条は直接適用されない。Cは,A社の「取締役」ではないからである。
ⅱ本事例において,A社に354条が類推適用されるか。
【解答】:A社に354条は類推適用されない。
表見代表取締役の制度を定める354条の趣旨は,取引の相手方が会社の代表権限をもつ者という外観を信頼して(登記簿を閲覧せず)取引を行った場合でも,その信頼を保護する点にある。この信頼保護を強調すれば,本問のDは,354条類推適用によって保護される余地がある。しかし,354条が適用される場合とは,「取締役」に対して代表権限を有する名称を付した場合である。かかる「取締役」は,あくまで当該会社の取締役を指す。そのため,354条の類推適用を認めるとしても,当該会社の従業員(使用人)に代表権限を有する名称を付した場合までに止まるべきあって,当該会社外の者に付した場合にまで適用を拡大することは避けるべきである。
②出版業を営むA株式会社は,新たな社屋を建設しようと,近隣に住まうEから,Eの所有する不動産を購入した。しかし,同不動産の所有権移転登記手続きは履行されておらず,登記名義人は,Eのままであった。A社は,Eに対し,所有権移転登記手続の履行(以下,「本件登記手続履行責任」という。)を求めたが,Eはのらりくらりとしてこれに応じないままであった。この事例につき,下記の(1)(2)に答えよ。なお,(1)(2)は各々独立した問いである。
(1)仮にEが,A社の取締役であった場合,EのA社に対する本件登記手続履行責任は847条1項前段「責任」にあたるか。
【解答】:847条1項前段「責任」にあたる。
取締役は,会社との取引によって負担することになった債務(取締役の会社に対する取引債務)についても,会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解される。そうすると,株主代表訴訟の対象となる取締役の責任には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。また,金銭債務の履行を求めたり,損害賠償責任を追及する場合には限定されない。
以上からすれば,本問のように,取締役がその地位に基づき会社と取引した場合,取締役は,会社に対して負担する取引上の債務を「責任」として負う。
(2)Eが本件登記手続を履行しないまま死亡し,Eの配偶者Fが,Eを相続した。上記不動産につき,相続を原因とするFへの所有権移転登記がされた。FはA社の取締役である。
ⅰFは,A社に対して本件登記手続履行責任を負うか。
【解答】:Fは,A社に対して本件登記手続履行責任を負う。Fは,相続によりEのA社に対する本件登記手続履行義務を承継する(民法896条本文)からである。
ⅱ上記ⅰの責任は,847条1項前段の「責任」にあたるか。
【解答】:上記ⅰのFの責任は,847条1項前段の「責任」にあたらない。設問②小問(1)で述べた847条1項前段の「責任」の意義からすれば,上記ⅰのFの責任は,FがEの配偶者として承継するに至った責任であって,A社の取締役として同社に負担するに至った責任ではない。

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