行政法

行政法ドリルNo.11[解答編]


【設問➀】
「公人ですか私人ですか」

A市は,コンビニエンスストア🏪を経営する株式会社B社との間で,住民に対する住民票の写しの交付を委託する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。A市は,A市個人情報保護条例(以下「本件条例」という。)第10条において,「市は,個人情報の取扱いを伴う事務又は事業を委託するときは,当該契約において,個人情報の適切な取扱いについて受託者が講ずべき措置を明らかにしなければならない」旨を定めている。本件契約及び本件条例に関する次の[問]について解答せよ。
[問]
(1)行政機関の行う権限の委任とは何か。
(2)本件契約によって,A市長は住民に対し住民票の写しを交付する権限の一部をB社に委任したことになるか。
(3)本件契約には,B社が個人情報の保護措置を講じているかをA市が確認する必要がある場合に,B社はA市の職員によるB社の作業所の検査に協力しなければならない旨を定めることができるか。
(4)A市は,本件条例第10条にいう受託者が個人情報の保護措置を定める契約の条項に違反した場合には刑罰を科される旨を,本件条例中に定めることができるか。

【解答】
(1)自己に与えられた権限の一部を他の機関に委譲して任せることをいう。法律上の処分権限を変更するものであり,法(例えば行政組織法)の根拠を必要とする。行政機関同士で行われる内部的な行為である。
⇒民法上の委任契約とは異なる。混同しないよう注意が必要だ。
(2)ならない。「本件契約」とあるように,A市長はB社に対し,民法上の委任「契約」に基づいて住民に対して住民票の写しを交付する行為を委託したに過ぎず,住民票の写しを交付する権限(=行政上の権限である)を委任したのではない(コンビニが「行政行為,始めました。」という幟かなんか立てたりしたらそれはそれで面白い気もするが,もちろんそんな事態は行政組織法上許されない)。本問におけるA市長は,あくまで公権力の主体としてではなく私人として,B社と対等な立場で本件契約を締結した。本件契約は,上記(1)で述べた「委任」とは異なる私法上の委任契約である。
(3)できる。契約自由の原則により,検査協力義務の履行を求めることは可能である。
B社においても,住民に対し住民票の写しを行う事務処理を(私法上の行為として)委託されたことから,住民票に記載された住民連中の個人情報を慎重に管理する義務(善管注意義務・民法644条)を負うべきだろう。
(4)できない。刑罰制定権は,あくまで国家の独占(専権)事項である(憲法31条参照)。そのため,契約自由の原則があろうとも,私人同士の契約によって刑罰を定めることはできない。契約による刑罰権の設定を許せば,「私刑」が横行し,街は自由という名の留置場になるに違いないのだ。

【設問②】
「私人ですか公人ですか」

A市では,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)の規制の及ばない,新たな形態の性風俗営業により,生活環境,教育環境に悪影響が出ていることから, 良好な生活環境の維持形成と青少年の健全育成を目的に,ホテル等建築の適正化に関する条例(以下「条例」という。)を制定することを検討している。当該条例では,条例に違反したホテルの建築に着手した者に対して,A市市長が中止を命ずることができる旨の規定を置くとともに, 中止命令の実効性を確保するための規定を設ける予定である。当該規定に基づく次の[問]につき,法令又は最高裁判所の判例に照らし,解答せよ(なお,解答に当たり,条例は旅館業法,風営法に矛盾抵触しないことを前提とすること)。
[問]
(1)中止命令は,「処分」(行政事件訴訟法3条2項等)に当たるか。また,中止命令によって私人(本問のホテルの建築に着手した者)に課される義務は,私法上の義務あるいは行政上の義務のいずれか。
(2)行政庁が行う「処分」(行政事件訴訟法3条2項等)について,民事保全法に規定する仮処分を行うことはできるか。
(3)中止命令に従わない場合には,A市が建築続行禁止の仮処分を申し立てることができるか。
(4)中止命令に従わない場合には,A市市長が除却を命ずることができるものとした場合,ホテルの建築に着手した者はどのような義務を負うか。
(5)中止命令に従わない場合には,A市市長が除却を命ずることができるものとして,行政代執行法に基づく行政代執行はできるか。

【解答】
(1)中止命令は,「処分」(行政事件訴訟法3条2項等)に当たる。中止命令は,公権力の主体であるA市市長(=行政庁)が風営法を根拠として行う行為であり,これによってホテルの建築に着手した者は当該ホテルの建築を中途で止めねばならなくなり,建築する権利が制限される。中止命令によって形成される義務は,行政上の義務である。
(2)できない(行政事件訴訟法44条)。行政上の行為と私法上の行為は,別概念(別次元)であることを押さえておこう。行政強制の問題を難しいと感じる原因の一つが,この両者を混在・混乱させていることにある。行政上の行為と私法上の行為を峻別・整理するために最適な問題として,短答式試験23-36(「公害防止協定」)がある。この23-36を確実に解くことで,行政機関の行為が法に基づいて行う権力的な行為(=上から目線の一方的な行為。かかる行為においては,相手方の意思は介在しない。例えば「処分」等がある。)なのか,あるいは私人と対等な立場(「対等」とはあくまで建前上だがね。)で行う私法上の行為(契約等)なのかを峻別・整理する視点を身に付けよう。
(3)できない。A市市長は,行政庁(行政権の主体=私人ではない)としてB社に行政上の義務履行を求めている。行政上の義務履行は,個人の私法上の義務履行ではないので,民事保全法の適用は排除される(行政事件訴訟法44条)
⇒「行政権の主体として,私人に行政上の義務の履行を求める」とは,契約の履行を求める場合と異なり,いわば「お上が,法に裏打ちされた権力に基づいて一方的に(有無を言わさず)義務履行を求める」行為である。行政権の主体として行われる行為は,先の「処分」もそうだが,行為に際して私人の意思を一切介在させない点で徹頭徹尾「上から目線」なのだ。
(4)ホテル🏨の建築に着手した者は,建築途中のホテルを除却する義務を負う。
(5)できる。建築途中のホテルを除却する行為は,代替性をもつ行為である(行政代執行法2条)。そのため,A市市長は,B社が除却命令に従わない場合,行政代執行法所定の手続きを経た上で(行政代執行法2条)建築途中のホテルを除却することができる。

【設問③】
義務付けの訴え及び差止めの訴えに関する次のアからエまでの各記述について,法令又は最高裁判所の判例に照らし,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
ア.法令に基づく許可の申請を却下した処分の取消しを求める訴えとその許可の義務付けを求める訴えが併合提起されている場合において,前者の処分の取消しの訴えにつき請求が棄却される場合には,後者の義務付けの訴えも請求が棄却される。
イ.差止めの訴えにつき,行政事件訴訟法の定める訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」 があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより救済を受けることが容易ではなく困難なものであるというだけでは足りず,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが不可能なものである場合に限られる。
ウ.訴訟要件を充足して適法に提起された処分の義務付けの訴えに係る請求が認容されるためには,行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められるか,又はその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となることが明らかであると認められることを要する。
エ.差止めの訴えにつき,他のより適切な訴訟類型の訴えが適法に併合提起されている場合には,当該事案においては後者の訴えに係る請求を棄却すべき場合であっても,行政事件訴訟法が訴訟要件を欠く場合として定める「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たるため,当該差止めの訴えは不適法な訴えとして却下される。

【解答】
ア 2(誤っている)
イ 2(誤っている)
ウ 2(誤っている)
エ 1(正しい)

(1)アにおける申請型義務付け訴訟においては,給付処分(本問であれば許可)を義務付ける訴訟と申請却下の取消訴訟を併合提起することが求められる(行政事件訴訟法37条の3第3項2号)。そのため,仮に後者の取消訴訟が棄却された場合,行政事件訴訟法の求める併合要件を欠くことになる。これは,提起された申請型義務付け訴訟において訴訟要件を欠くことと同義である。また,取消訴訟に理由がない以上,義務付け訴訟について本案について判断する必要がないのである。そうすると,義務付け訴訟は「棄却」されるのではなく「却下」されることになる。「取消訴訟が棄却された」ことが,義務付け訴訟の併合提起要件にどのような影響を及ぼすのか,さらに義務付け訴訟に対してどのような効果をもたらすのかを慎重に判断することが大切だ。
(2)イについては,差止め訴訟の特徴である「取消訴訟の前倒し的機能をもつ」ことを意識しながら解くことが大切だ。この機能からすると,差止め訴訟を提起するためには,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより救済を受けることが容易ではなく困難なものであることが必要となる。換言すれば,処分が行われることを待ってそれから取消訴訟を提起し権利救済の目的が充分達せられるのであれば,わざわざ処分を事前に牽制するような訴訟を提起する実益はないということだ。あくまで取消訴訟の提起によれば救済が期待できるかどうかがポイントであって,「処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが不可能である」かどうかは関係のないことなのだ。
(3)ウについては,行政事件訴訟法37条の3第5項をきちんと押さえていれば,難なく解ける。もちろん,文言まで正確にしておくことが理想だ。ただ,同条は長く,全ての要件を正確に記憶している人はそういないのではないだろうか。そこで,基礎理論を押さえていることを前提に問題文から解答の糸口を探っていく。
問題文中の「明らか」に着目しよう。その上で「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らか」と「その処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となることが明らか」をそれぞれ見ていこう。
まず「処分の根拠となる法令の規定から明らか」についてである。
当該処分を行う/行わないの判断については,法令によって行政庁の裁量に委ねられているのが通常であろう。そうすると,当該処分を行わないことがその処分の根拠となる法令に反するかどうか明確でない場合であれば,行政庁が当該処分を行わなくても違法になるわけではない。すなわち義務付けの訴えに係る請求が認容されるとは限らない。これに対し,根拠法令に反することが明らかすなわち当該処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであれば,当該処分を行わない行政庁においてその処分の根拠法令に反することが明らかなので,行政庁は当該処分をすべきことになる。
次に「その処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となることが明らか」について検討しよう。
「その処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用であること」が認められれば,その処分をしないことが処分の根拠法令に明らかに違反している。図式的に示せば,「裁量権の範囲を超え若しくはその濫用」=「違法」すなわち「法令に反することが明らか」ということもできる。そうすると,「裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となること」に「明らか」という要件を加えることは不要であると同時に,「裁量権の範囲を超え若しくはその濫用」の意味を正確に捉えた表現でないことが分かる。
(4)エについては,「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」の意味を正確に押さえておく必要がある。「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」とは,処分の根拠となる法令によって予め訴訟提起の方法が指定されているような場合だ。本問の「他のより適切な訴訟類型の訴えが適法に併合提起されている場合」がこれに当たる。
法令によって既に訴訟提起の方法が指定されているのであれば,差止め訴訟を追行し本案判決を得る実益に欠けるのだから,その差止め訴訟については訴訟要件を欠くことになる。また,その「適当な方法」である訴訟に係る請求が棄却された(すなわち請求に理由がない)としても,その結論は変わらない。「適当な方法」が予め指定されている時点で,上記のように差止め訴訟については訴訟要件を欠くからである

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