商法

商法ドリルNo.14[解答編]


【設問➀】
手形上の記載からは,約束手形の振出しが法人のためにされたものであるとも,代表者個人のためにされたものであるとも解し得る場合には,手形所持人は,法人及び代表者個人のいずれに対しても手形金の請求をすることができるとの見解がある。次のアからオまでの各記述のうち,この見解と整合しないものはどれか。
ア.法人の代表者が法人のために手形行為をする場合の代表機関としての表示は,法人のためにされたものであることを認識し得る程度に手形上記載すれば足りる。
イ.手形上の記載を解釈するに当たっては,一般の社会通念に従ってその記載の趣旨を合理的に判断すべきである。
ウ.手形上,法人名と個人名とが併記されている場合には,法人の代表者である旨の記載がなくても,法人の代表者が法人のために手形行為をする場合の代表機関としての表示と解釈すべきである。
エ.この手形金の請求を受けた者は,その振出しが真実いずれの趣旨でされたかを知っていた直接の相手方に対し,その旨の人的抗弁を主張することができる。
オ.手形上の記載を解釈するに当たっては,手形外の証拠もしんしゃくすることができる。

【解答】
S東先生「本問の見解におけるポイントはどこにあるでしょうか。見解の中から注目すべき該当箇所を特定してください。」
花子さん「・・・・・えーっと『手形所持人は,法人及び代表者個人のいずれに対しても手形金の請求をすることができる』という箇所でしょうか?」
S東先生「ご指摘の『請求をすることができる』は,どのような判断基準を拠り所にしていますか。請求可能性を決する判断基準を見解の中から特定してください。」
花子さん「請求の相手方を決するための判断基準は,『手形上の記載』です。手形上の記載から,『約束手形の振出しが法人のためにされたものであるとも,代表者個人のためにされたものであるとも解し得る場合』には,両者いずれに対しても手形金の請求をすることができるとされています。」
S東先生「そうですね。請求の相手方が,法人及び代表者個人いずれもなり得るという箇所も確かに重要ですが,本問の見解で最も大切な箇所は,請求の相手方を決するための判断基準です。具体的には,『手形上の記載』を判断の拠り所として請求の相手方を決するという点です。別の言い方をすれば,『手形上の記載から読み取れない事由』すなわち『手形外の事由』を請求の相手方を決する際の判断要素としてはいけないということです。以上のように見解を単純化(=言い換え)すると,案外すんなりと判断できるのではないでしょうか。」
花子さん「『手形上の記載に従って判断する』という視点から,見解と各記述の整合性を検討すればよいわけですね。」
➀ア及びイについて(「議論の次元」を意識しよう)
S東先生「では,アから行きましょうか。」
花子さん「アは,『手形上の記載の程度』について書かれています。見解は,あくまで『手形上の記載を判断の拠り所とする』なので,アの内容と見解の内容は次元の違う話です。言い換えると,アは,見解の示す判断基準を採用することを前提に,では実際にどの程度明示的に記載すべきなのか,という内容です。両者は矛盾するものではありません。つまり整合的です。」
S東先生「その通りです。アは,見解の直接の言い換えとはなっていませんが,ご指摘の通り矛盾する関係にないので,整合的ではあるということですね。このように『議論の次元・段階・レベル』を意識することも大切です。アは,比較的難易度の低い記述と言えるでしょう。では,イはいかがでしょうか。」
花子さん「イは,手形上の記載の解釈の方向性を示しています。つまり,手形上の記載を判断の拠り所にしつつ,具体的な判断基準要素として何を重視するかを内容とします。見解と整合的です。」
②ウ及びエについて(判断基準に照らしてみよう)
S東先生「アと同様,難しくないですね。ウはどうですか。」
花子さん「見解は,あくまで『手形上の記載』を判断の拠り所とします。ところが,ウは『法人の代表者である旨の記載がなくても』とあるように,『手形上の記載』に囚われない内容となっています。そのため,見解と整合的ではありません。」
S東先生「そうですね。記述の内容を精確に把握するためには,こうしたポイントとなる言葉を特定することが大切です。では,次にエを検討しましょう。」
花子さん「注目すべきは『人的抗弁』という箇所です。『人的抗弁』とは,手形上の記載と関係なく,手形の原因関係に起因する抗弁(請求原因が予定する法律効果の発生をくつがえす主張)ですので,見解の『手形上の記載』を判断の拠り所とする考え方と矛盾することはありません。見解と整合的です。」
S東先生「そうですね。人的抗弁の主張の可否は,請求の相手方をどのような判断基準で決するのかどうかとは直接の関係をもつものではないでしょう。では,オはどうでしょうか。」
③オについて
花子さん「『手形外の証拠もしんしゃくすることができる。』という箇所が,見解の『手形上の記載を判断の拠り所とする』と整合しません。『手形の証拠(のしんしゃくする)』と『手形の記載(を判断の拠り所とする)』は,内容的に相反するからです。」
S東先生「そうですね。オについては,『手形外の証拠』をも判断基準の要素とする点で,見解の『手形上の記載を判断の拠り所とする』考え方と矛盾します。先程,『手形外の事情』を請求の判断要素としてはいけないと言いましたが,オはまさに『手形外の事情』を判断要素としてしまっているのですね。
以上のように,本問のカギは『見解』をシンプルかつ精確に言い換えることができることです。また,この言い換えに沿って判断ができるかどうかが問われていたともいえるでしょう。要するに『規範⇒あてはめ』という基本ルールの理解を問う問題であったわけです。」

【設問②】
甲株式会社は,会社法上の公開会社でない取締役会設置会社であり,これまで新株予約権を発行したことがない。甲株式会社の発行可能株式総数は1万株で,発行済株式の総数は8500株(自己株式500株を含む。)である。 甲株式会社が発行する新株予約権に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。

ア.甲株式会社は,募集新株予約権について,新株予約権の目的である株式の数を10株,新株予約権を行使することができる期間の初日を割当日の1年後の日,募集新株予約権の数を300個と決定し,新株予約権300個を発行することができる。
イ.甲株式会社が新株予約権の発行後に定款を変更して会社法上の公開会社となる場合には,当該新株予約権の新株予約権者は,甲株式会社に対し,自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
ウ.甲株式会社の株主総会の決議によって,募集新株予約権についての募集事項の決定を取締役会に委任し,取締役会がその委任に基づいて募集事項を決定した場合には,甲株式会社は,割当日の2週間前までに,当該募集事項を株主に通知し,又は公告しなければならない。 エ.甲株式会社がその発行する新株予約権を引き受ける者の募集において株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合には,甲株式会社も,自己株式について当該権利を有する。
オ.募集新株予約権の引受けの申込みをした者は,割当日に,甲株式会社の割り当てた募集新株予約権の新株予約権者となるが,募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要する場合には,募集新株予約権についての払込期日までに,払込金額の全額の払込みをしなければ,当該募集新株予約権を行使することができない。
1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.ウ オ

【解答】
➀何が問われているか
S東先生「まず,本問を解く上で着目した箇所を指摘してください。」
花子さん「問題文冒頭の「(甲株式会社は)公開会社ではない」という箇所です。」
S東先生「なぜ,その箇所に着目したのですか。」
花子さん「本問は,株式会社における新株予約権発行の手続きを問うていると思ったためです。」
S東先生「その通りです。では,なぜ『本問は,株式会社における新株予約権発行の手続きを問うている』と思ったのでしょうか。問題文のどこからそのように言えますか。」
花子さん「例えば,記述アでは『(新株予約権の)発行』,イでは『(新株予約権の)買取請求』,ウでは『(新株予約権の)募集事項の通知又は公告』・・といったように,新株予約権に関わる手続を想起させる文言が書かれていることからです。」
S東先生「そうですね。では,以上のことを踏まえて本問で問われていることを簡潔に述べてください。」
花子さん「『公開会社ではない株式会社における新株予約権発行手続きに関する理解』です。」
S東先生「『株式会社における新株発行手続き』ではなく,『公開会社ではない株式会社における新株発行手続き』という点が重要ですね。当該株式会社が公開会社かどうかは,解答のカギとなることが多いのでぜひ注目しておきたい所です。
②出題者の誘導に乗る
S東先生「では,以上を踏まえて本問を解答していただきましょう。各記述のうち,どこから検討しますか。」
花子さん「私はオから検討しました。」
S東先生「なぜオから検討しましたか。」
花子さん「オは記述こそ長いですが,新株予約権発行の手続きに関する基礎的な知識を問う記述で取り組みやすく,正しいと判断しやすいからです。「払込み」「行使」といった文言を見ると,これまで過去に何度か問われた内容だとすぐに分かりました。」
S東先生「そうですね。本問はオがもっとも判断しやすいですね。新株発行手続きに関する基礎知識として必ず押さえておきたい内容であり,過去問演習の重要性を教えてくれます。
なお,短い記述から検討するという方法もあります。確かに組み合わせ系の問題の一部では有効なのでぜひ意識しておきたい方法ですが,それに囚われてもいけません。問題によっては(あるいは公法系や刑事系のように組み合わせ問題が少数派の科目では)記述の長さに着目したところで,正答を導く上でほとんど役に立たないからです。
大切なのは,記述の長さよりも内容です。短い記述でも難解な場合もありますし,長い記述の中にも簡単な記述があります。要するに記述の外形だけを決め手にしないことです。
では,オが正しいと分かると自ずと2(アオ)と5(ウオ)に絞られることになりますが,後はどこに注目して正答を導きますか。」
花子さん「アは,先程から言われているように数字が出て来るので,できれば回避したいところです。内容を見てもよく分かりません。おそらく法務省令に関する知識が問われているのでしょうが,そこまで手が回っていません。そうすると,自ずとウを検討することになります。」
S東先生「その通りでしょうね。アは,オのような“常連さん”知識を問う記述ではない上に,その場で考えたとしても答えが出せるような記述ではありません。そのため,アについては“敬遠”が妥当でしょう。ただ,このような一見してよく分からない記述が冒頭のアに置かれているのは,出題者側に『アを回避させてウに誘導し,ウに書かれている内容を理解しているかを問う』という意図があるのかもしれません。もちろん,単純に受験者を心理的に動揺させる目的もあるでしょう。アに難しい記述が置かれていると,たとえそれが『出題者側の伝統芸能的な戦略』と分かっていても少なからず動揺してしまうものです。しかし,動揺することは仕方ないですし,それで構いません。大切なことはたとえ動揺しても先程述べたような誘導(アを回避してウにたどり着き,ウを的確に判断する)に乗ることです。組み合わせ問題では,こうした出題者側の誘導に乗れるかも重要です。むやみに考え込まないことも必要でしょうね。試験における『考える』とは,あくまで『条文,判例や定義を臨機応変に操作する』ことですので,闇雲に想像力を働かせてもかえって焦るばかりになってしまいます。やはり条文,判例や定義を固めることを第一としましょう。では,ウの正誤とその理由はいかがでしょうか。」
花子さん「ウは誤っています。『募集新株予約権の募集事項を株主に通知し,又は公告する』ケースとは,類型的に株主が不特定多数で広範に存在するケースです。そのため,募集新株予約権の募集に際して『募集事項を株主に通知し,又は公告する』が求められる株式会社とは,公開会社であって本問の甲株式会社のような非公開会社ではないことになります。
会社法では,240条2項及び3項に規定されています。」
S東先生「そうですね。ウについては,『通知又は公告』の趣旨に照らして判断することが大切です。もちろん前提として公開会社と非公開会社それぞれが予定する株主について反応できることが必要です。
③関連知識も確認する
では,『通知又は公告』について角度を変えて質問致します。『通知又は公告』とありますが,いずれが原則的な手段でしょうか。」
花子さん「通知です。会社法240条3項は,『通知は,公告をもってこれに代えることができる』と規定しており,あくまで『通知』が原則的な手段だといえます。」
S東先生「そうですね。『通知』は株主の居所を把握することが困難であったり,コストもかかったりといった不都合が予想されます。そのため,『公告』という手段で代替できるということなのでしょう。もっとも,株主名簿の記載・記録の『基準日』の定めのように『公告』が原則として求められるケース(会社法124条3項)もあるので注意しましょう。では,『公告』について更に質問致します。『公告』には,どのような手段がありますか。手段と条文を示してください。また,『公告』は定款でもってその方法を定めなければならないのでしょうか。」
花子さん「手段としては『官報に掲載する方法』『時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法』『電子公告』のいずれかです。会社法939条1項各号です。同条の柱書によれば,『公告』の方法は,あくまで定款で定めることが『できる』のであって,定款で定めなければならないわけではありません。」
S東先生「そうですね。ではさらに『公告』に関連する問題について答えて頂きましょう。
資本金減少や組織再編で必要とされる債権者異議手続の際に債権者に対する『公告』が必要とされていますが,具体的にはどのような方法が必要ですか。『官報』だけで足りるのでしょうか。あるいは他の方法も必要でしょうか。」
花子さん「『官報に加えて知れている債権者に対する各別の催告』が必要とされています(会社法449条2項等)。ただ,『官報』に加えて『時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法』又は『電子公告』による公告方法を行えば,各別の催告は必要ありません。」S東先生「やや細かいかも知れませんが,本試験で問われる可能性がありますので具体的な手続き内容まで押さえておきましょう。」

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