商法

商法ドリルNo.19[問題編]

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【設問】
関東地方に店舗網を有し,主に大衆向けの衣料品の販売業を営んでいる株式会社Aは,かねてから関西地方に進出することを企画していた。
同社の取締役甲は、会社に無断で自ら大阪において「A大阪店」という商号を用い,主に高級衣料品の販売を開始した。この場合に株式会社Aは,甲に対し,会社法上どのような措置をとることができるか。

[分析のAppearance]

S東先生:今回の問題を見た瞬間,花子さんはどこに着目しましたか。

花子さん:今回の問題は問題文が短く,事案も比較的馴染みのあるものだったので,直ぐに論点が分かりました。取締役の競業取引に関する問題ですよね。なので,競業取引に関して規定した条文の要件を検討すればよいのだな,という点に着目しました。

S東先生:そうですか。でも,それだと。

花子さん:え・・・あっ,そうか。ただ暗記したことを吐き出すだけになっちゃいますね。

S東先生:そうです。「でも,それだと。」で分かるとは,さすがスク東先生に鍛えられただけのことはありますね。
花子さんの言う通り,本問では取締役甲の競業取引(会社法356条1項号)に該当するかが問題となります。しかし,大切なことは,まず本問で問われていることをしっかり把握することです。問題文の問い掛けを見てください。本問の問い掛けは,例えば「取締役甲に競業取引が認められるか。」という問い掛けになっているでしょうか。

花子さん:なっていませんね。「株式会社Aは,甲に対し,会社法上どのような措置をとることができるか。」となっています。

S東先生:そうです。本問の問い掛けを見て,まず何を考えるべきですか。

花子さん:株式会社Aが,甲に対して,何を主張するだろうか,ということです。
S東先生:そうですね。民法や会社法では,しばしば「生の主張を考えよう」と言われることがあります。ここでいう「生の主張」とは,別段「採れたての新鮮な主張」ということではなくして,要するに「法律論を離れた当事者の素朴な主張」ということでしょう。具体的には「金を払え,返せ」「邪魔だから出ていけ」「やめろ」等々といったものです。法律論を検討する前に,こうした当事者の素朴な主張を明らかにすることが不可欠です。その上で,当事者の素朴な主張の根拠となる条文等を確定し,法律論として構成することになります。論点が出て来るのはその次の段階ですね。もちろん,問題によっては即座に検討すべき論点が分かる問題があります。論点に気付くと,とかくその論点の論証を思い出すことに気を取られがちですが,そこをぐっとこらえ,まずは「問いはどうなっているのか」「この問題が問うていることは何か」「登場人物は何について困っているのか」に目を向けましょう。論点は,「当事者の請求を通す上で解決が必要な問題点」と捉えておくことが大切です。また,当事者の立場を想像しながら主張を組み立てることで,いわゆる「問題の所在」「悩み」といった当該問題において出題者が工夫を凝らした応用問題に気付くこともできます。

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