行政法

行政法ドリルNo.9[解答編]


【設問➀】
抗告訴訟における「処分」(行政事件訴訟法3条2項等)の定義
【解答】
公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
⇒以上の定義については,大きく分けて「公権力性」と「直接法効果性」といった2つの要素に整理することができる。それぞれの内容・特徴を正確に把握しておこう。なお,「公共団体」を「地方公共団体」としないよう注意。
【設問②】
違法性の承継について次の小問(1)~(4)に答えよ。
(1)違法性の承継が許されるのは,どのような場合か。
(2)違法性の承継という理論の目的(なぜ,このような理論が構築されたのか)
(3)違法性の承継における先行行為に「処分」性は認められるか。
(4)仮に先行行為の時点で,手続保障の制度が整備されていたとする。その上で先行行為について取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法14条)が経過した場合,原告は,後行行為について取消訴訟を提起し,同訴訟の中で先行行為の違法性を主張することができるか。
【解答】
(1)先行行為と後行行為とが同一の目的を達成するために行われ,両者が結合して初めてその効果を発揮するものであり,先行行為について,その適否を争うための手続保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているとはいえない場合に(例外的に)許される。
(2)私人の権利保護のための手続保障の機会付与の要請と,行政行為の効果の法的安定性との調和の観点から認められた。
違法性の承継については,対立する利益を特定し,これらがなぜ対立するのか,そしてこの対立をどう調整するのか等について意識しながら押さえよう。具体的には,以下のような思考過程となるだろう。
後行行為の取消訴訟で先行行為の違法の主張を自由に許すと,出訴期間を設けて行政行為の効果の早期確定を図った法の趣旨を没却する。しかし一方で,先行行為の違法の主張を封じることで国民の実効的権利救済が損なわれる弊害もある。そこで,先行行為が予定する効果の早期確定に優越させてもなお国民の実効的権利救済を図ることが正当化される場合には,例外的に違法性の承継が認められる。
(3)認められる。違法性の承継の背景にある問題点は,先行行為の出訴期間経過後にもかかわらず,後行行為に対する取消訴訟で先行行為の違法性を主張できるかということである。このことはすなわち,先行行為に処分性が認められることを前提とする。仮に先行行為に処分性が認められないのであれば,出訴期間の経過に伴う先行行為の効果の早期確定の要請を考慮することなく,先行行為の違法性を後行行為に対する取消訴訟において主張することが出来るからだ。
(4)主張することはできない。先行行為の時点で,同行為の適否を争うための手段が整備されている以上,原告に自らの権利を守るために主張する機会(手続保障の機会)が与えられていた。同行為の効果を早期確定の要請を犠牲にしてでも国民の権利利益を図るだけの正当性はないのである。なお,小問(1)(2)参照。
【設問③】
次の事例を読み,続く小問(1)~(2)について解答せよ。
建築基準法が同法所定の接道義務について条例による制限の付加を認めていることを受け,東京都建築安全条例(以下「条例」という。)は,接道義務を厳格化している。条例の定める安全認定(以下「安全認定」という。)は,接道義務の例外を認めるための制度であり,接道要件を満たしていない建築物の計画であっても,適法に安全認定を受けていれば,建築確認申請手続において,接道義務の違反がないものとして扱われることとなる。なお,安全認定が行われた上で建築確認がされている場合に,建築確認の取消訴訟において安全認定の違法を主張することの可否について判断を示した最高裁判所の判決(最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決)がある。
[小問]
(1)この事例における安全認定に処分性は認められるか。
(2)この事例における安全認定の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に充分に与えられているといえるか。
【解答】
(1)認められる。以下では,本問を解答する際の注意点を中心に述べる。
本問は,最高裁が違法性の承継を認めた事案である。そのため,「違法性の承継が論点になるのだ」という思いが先行し,それが解答にも悪影響を及ぼすことが考えられる。例えば,違法性の承継にばかり目が向き,問いの内容を飛ばしてしまった下記「」内のような解答だ。
「本問では,違法性の承継の許否が問題となる。【設問②】で既に触れたように,違法性の承継では先行行為及び後行行為いずれについても処分性が認められることが当然の前提である。そのため,本問の安全認定は,建築確認に先行する行為なので処分性が認められる。」
この解答の理屈は,「本問事例で違法性の承継が問題となるのだから,先行行為である安全認定に処分性があることが当然の前提とされている」というものだ。確かに本問は,判例が違法性の承継という理論を認めたケースをベースにしているから,その限りにおいては間違いではない。しかし,本問の問いは,「安全認定に処分性は認められるか」であるから,まずは「処分」の定義を明らかにし,定義に照らして「安全認定」という行政行為の分析を行うべきだ。上記「」内の解答は,いきなり違法性の承継を持ち出している点で,問いから外れてしまっている。仮に,問いが,本問と異なり「本件建築確認の取消訴訟において本件安全認定の違法性を主張できるか」という形式であれば,後行行為の取消訴訟において先行行為の違法性を主張することの許否として違法性の承継の可否を議論することになるだろう。「違法性の承継が論点である」ことから思わず先走って問いの形式を捨象し,議論の対象を間違えないよう注意したい。また,議論の順序にも配慮したい。「違法性の承継が問題になるから,当該行為に処分性がある」のではなく,「当該行為に処分性が認められなければ,そもそも違法性の承継の許否は議論されない」ことにも注意が必要だ。
ではどのような解き方がいいか。問いが「この事例における安全認定に処分性が認められるか」なので,「処分」の定義を明らかにし,定義に照らして「この事例における安全認定」を見ればいいのである。すなわち「処分」の定義を参照しながら本問事例を検討するのだ。他の問題でも使えるシンプルで確実な解法である。違法性の承継の概念が登場するのはその先である。【設問➀】で述べた「処分」に照らしてみると,本事例の「安全認定」は,「接道義務の例外を認めるための制度」であり,「建築確認申請手続において,接道義務の違反がないものとして扱われる」というものだ。以上の「制度」及び「扱」いによって,建築主に対し,直接「接道義務」という法的な義務(=建築を自由に行う権利の制限)の緩和という効果及び接道義務の違反がないという法的地位が与えられる。さらに「安全認定」は,条例の規定に基づくということから,国民の意思を介在させることなく一方的に行われることが推測できる。すなわち公権力性が認められることも問題ない。以上,「処分」の定義に問題文から読み取れる事情をあてはめることで,シンプルに解くことが出来る。
(2)いえない。本問も,判例の知識があれば難なく正解できるが,問題文を手掛かりに正答を導くことはできないか。注目すべきは,事例中の「適法に安全認定を受けていれば,建築確認申請手続において,接道義務の違反がないものとして扱われる」という箇所である。「建築確認申請手続」を行うのは建築主だから,「安全認定」による「接道義務違反がないものとして扱われる」という法的利益を受けるのも建築主である。そうすると,「安全認定」については,「建築確認申請手続」を行う建築主に対して行われることが予定されているに過ぎなのではないか,という推測ができるだろう。
【設問④】
次の事例を読み,続く小問(1)~(3)の正誤を答えよ。
食品会社であるXが,食品を輸入しようとしたところ,検疫所長Yから食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの。以下「法」という。)第6条に違反する旨の通知(以下「本件通知」という。)を受けたため,その取消しを求めた事案において,本件通知が抗告訴訟の対象となる 処分に当たるかどうかについて判断を示した最高裁判所平成16年4月26日第一小法廷判決の次の判示を読み,下記小問(1)~(3)について解答せよ。
「食品衛生法違反通知書による本件通知は,法16条に根拠を置くものであり,厚生労働大臣の委任を受けたYが,Xに対し,本件食品について,法6条の規定に違反すると認定し,したがって輸入届出の手続が完了したことを証する食品等輸入届出済証を交付しないと決定したことを通知する趣旨のものということができる。そして,本件通知により,Xは,本件食品について,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなるのであり,(中略)関税法基本通達に基づく通関実務の下で,輸入申告書を提出しても受理されずに返却されることとなるのである。」
(参照条文)食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの)
第6条 人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会 の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は,これを販売し,又は販売の用に供するために,製造し,輸入し,加工し,使用し,貯蔵し,若しくは陳列してはならない。
第16条 販売の用に供し,又は営業上使用する食品,添加物,器具又は容器包装を輸入 しようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,そのつど厚生労働大臣に届け出なければならない。
(参照条文)関税法
第67条 貨物を輸出し,又は輸入しようとする者は,政令で定めるところにより,当該貨物の品名並びに数量及び価格(中略)その他必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受けなければならない。
第70条 (略)
2 他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物に ついては,第67条(輸出又は輸入の許可)の検査その他輸出申告又は輸入申告に係る税関の審査の際,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならない。
3 第1項の証明がされず,又は前項の確認を受けられない貨物については,輸出又は輸入を許可しない。
[小問]
(1)この判決は,検疫所長による本件通知に法的効力を認めたといえるか。
(2)この判決によれば,税関長は,本件通知の時点で,関税法第70条第3項に基づき輸入を許可しないという処分をしたことになるか。
(3)この判決の考え方に立っても,輸入申告に対する税関長の拒否行為について取消訴訟を提起することは許されると解し得るが,同訴訟においては,法第16条の届出の対象となる食品等が法第6条に適合するか否かについては争うことができないとされる可能性があるか。
【解答】
(1)正しい(認めたといえる)。
検疫所長の行う本件通知は,「通知」という文言が示すように,あくまで事実上の行為に過ぎず,法的効力はないかに見える。しかし,判示部分の「本件通知により,Xは,本件食品について,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項により輸入の許可も受けられなくなる」によれば,「本件通知」がなされると,関税法70条3項の「許可」を受けられなくなるという法的効力(=「不許可処分」)に到達することが分かる。要するに「本件通知」と「関税法70条3項規定の不許可処分」との間には,法的に順調な因果の流れが予定されていることが分かる。「本件通知⇒関税法70条3項のふかきょんもとい不許可処分」の流れを阻害するものは何もない。
(2)誤っている(輸入許可をしないという処分をしたことにはならない)。
たしかに上記(1)によれば,本件通知に法的効力が認められる。しかし,それはあくまで本件法の仕組みから,「本件通知⇒関税法70条3項の輸入不許可処分」という流れが法的に予定されているというに過ぎない。そのため,本件通知がなされたからといって,このことをもって税関長が関税法70条3項に基づいて輸入につき不許可処分をしたとはいえないだろう。本件通知を受けて,税関長が関税法70条3項を根拠に輸入を許可しないという手続きを行う必要がある。すなわち,本件通知がなされる同時に税関長の輸入不許可処分が導かれるわけではないのだ。また,本件通知を行うのは検疫所長であって税関長ではないことにも注目できる。それぞれの手続きを担う主体が異なることからも,本件通知の時点で税関長が関税法70条3項に基づいて輸入を許可しないという処分(=輸入の不許可処分)をしたとはいえないことが分かる。
(3)正しい(争うことができないとされる可能性がある)。
本問の事案では,2つの処分が登場する。検疫所長Yの行う本件通知(食品衛生法6条を根拠とする)と,税関長の行う輸入申告に対する不許可処分(関税法70条3項を根拠とする)だ。すなわち検疫所長と税関長による「連係プレー的な処分」が予定されているといえるだろう。そのため,【設問③】で検討した違法性の承継の許否という議論がここでも登場するのだ。
違法性の承継の概念に照らして本問を検討する。本件通知は,食品の輸入許可を求める国民(X!)を名宛人として行われるものであった。そのため,Xは本件通知を受けた時点で本件通知に対する取消訴訟を提起し,法第16条の届出の対象となる食品等が法第6条に適合するか否か(すなわち本件通知の違法性)について争うことが可能であり,手続保障の機会が付与されていた。そのため,違法性の承継における先行行為(本事例における本件通知)の時点において,その適否を争うための手続保障が充分に与えられていた(争うための手段が制度化されていた)といえるので,後行行為である税関長の輸入拒否行為に対する取消訴訟において,法第16条の届出の対象となる食品等が法第6条に適合するか否かについては争うことができないとされる可能性がある。

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