刑法

刑法No.4[解答編]/ベーブ・ルースの言葉(2)

 


・人間、失敗にビビッテいたら、何にもならない。失敗と成功とは、ほぼ、同じことである。違いは、時間の差があるだけだ。

この前提には、「改善する」という要素がいる。この点について、世界におけるプロ野球史上のスーパー・スターであるベーブ・ルースはかましている。

<ベーブ・ルースの言葉(2)>
「三振を恐れてちゃ、何もできないよ」

・予備試験・司法試験でも、同じことがいえる。不合格を怖れては、まともな勉強もできない。ただ、努力もせず、恐れるのなら、別のことをやった方がいい。

では、昨日の答えを出します。


刑法テストNo.4[解答編]

参考文献等
山口厚・「刑法[第2版]」(有斐閣・2013年)
スク東先生・「スク東先生ブログ」(スク東先生・2016年夏~)

次の記述について解答せよ。刑法の法名は省略する。

【問➀】甲は,乙が盗んだバイク🏍を盗品とは知らずにこれを乙から有償で譲受け,乗り回して喜んでいた。甲は,ある日友人のOGKからそのバイクが盗品であることを知らされたが,それでもなお甲は,このバイクに乗って喜んでいた。この場合,甲に盗品等有償譲受罪(256条2項)が成立するか。
【解答】成立しない。盗品等罪の法的性質は,被害者の追求権のみならず本犯助長的(事後従犯的)性格にある。本犯助長的性格を考慮すると,盗品等有償譲受罪であれば,本犯者と盗品を譲り受けた者双方において,盗品の取引であることにつき意思疎通(共通認識)が必要となる。意思疎通がなければ,盗品を譲り受ける者において本犯者の犯罪を助長(事後的に幇助)している認識がないことになるため,本罪の本犯助長的性格が認められないだろう。すなわち盗品を譲り受けた者において盗品等(有償)譲受罪が成立するためには,本犯者において盗品を譲り渡すことを伝え,盗品を譲り受けた者においても,譲受の客体が盗品であることを認識・了解したことが必要となる。
そうすると,本問の場合,甲は乙からバイクを譲り受けた時点ではバイクが盗品である事実を知らなかったのだから,甲乙間で盗品の取引に関する意思疎通がなかった。したがって,事後的に甲が,バイクが盗品である事実に気付いたとしても,盗品等有償譲受罪は成立しない。
【問②】甲は,乙が盗んだガラスの置物を盗品とは知らずに,乙から保管を頼まれ,それを乙のために厳重に保管していたところ,ある日友人のOGKからその絵画が盗品であることを知らされ,それでもなお乙のために保管を続けていた。この場合,甲に盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。
【解答】成立する。盗品等保管罪は継続犯なので,盗品を保管した者において保管当初は客体が盗品である事実を知らなかったとしても,後に盗品であることを認識し本犯者のために保管を継続した場合は,本犯助長(事後従犯)が観念されるため,盗品等保管罪が成立する。なお,上記➀も参照。
【問③】甲は,盗んだ自転車で逃走中の乙を追跡する司法警察職員OGKに「あんの~さきほど自転車に乗ったこんな男を目撃しませんでしたかね。どちらの方向に向かったか知りませんかね。ご不便をおかけします。」と乙の写真を見せられた。甲は,乙の行く先を知っていたものの,友人である乙の逃走を助けてやろうと思い,乙が向かった方向とは逆の方向をOGKに教えた。OGKは,「あ,そうなんすね。お世話になります。ご協力に感謝します。」と言い残して,甲が指示した方角に向かった。この事例で,甲に偽計業務妨害罪(233条)は成立するか。
【解答】成立しない。本問の甲に成立するのは,犯人隠避罪(103条)である。犯人隠避罪の成立により捜査機関の円滑な捜査(円滑な司法作用)は保護されるので,偽計業務妨害罪を成立させる必要はない。また,捜査機関には捜査という(権力的で特別な)公務に携わる権限が付与されている。捜査権限の円滑な行使という法益は,犯人隠避罪の成立によって特別に保護されているといえるだろう。
【問④】甲は,路上で警察官の制帽を拾った。この制帽は,近所の交番に勤務する司法警察職員OGKが紛失したものであった。甲は,この制帽を同交番で執務中のOGKのもとに届けたが,その際,OGKから金員を喝取してやろうと思い,OGKに対し「警察官が制帽を紛失したなんてマスコミに知られたらどうなるかな。マスコミに知られたくなかったら,ちょっと俺に渡すものがあるんじゃないのか。」などと語気鋭く申し向けた。OGKは,これまで何度も制帽を紛失しており,ひどい時には警察手帳や拳銃を紛失したこともあるくらいだった。しかし,その度に「ご不便・ご迷惑をお掛け致しました」と言って済ますだけで,マスコミに知られることがなかった。OGKにはそんな“実績”があったため,自信たっぷりに「あ,そうすか。どうぞご自由に。」と言っただけで甲の要求に応じることはなかった。この事例で甲に公務執行妨害罪(95条)は成立するか。
【解答】成立しない。公務執行妨害罪が成立するためには,脅迫ないし暴行が当該公務員による公務に向けられている必要がある。本問の甲は,OGKに対して脅迫的言辞を吐いているものの,それはOGK個人による金員の交付に向けられているのであって,OGKが携わる公務に向けられたものではない。そのため,甲にはOGKに対する恐喝未遂罪(249条,250条)が成立し得るものの公務執行妨害罪は成立しない。
【問⑤】不能犯が不処罰とされる根拠
【解答】法益侵害ないし構成要件の実現に至る現実的危険性を欠いた点にある。不能犯と未遂犯の区別は,法益侵害ないし構成要件の結果発生の現実的危険性の有無にある。
【問⑥】甲は,乙がジンジャーケーキを食べると深刻な腹痛を起こすことを知っており,乙にそれとは知らせず,「これ,紅茶シフォンケーキなんで!」と嘘をついてジンジャーケーキがふんだんに入ったケーキを食べさせ,その結果甲は腹痛を起こし,WC(🚾🚽)に籠った。この事例で甲に傷害罪(204条)が成立するか。
【解答】成立する。一般的に見れば,通常ジンジャーケーキを食べたからといって深刻な腹痛を起こすことはなく,身体の安全に対する現実的な侵害は生じるものではないだろう。しかし,本問で甲に何ら犯罪が成立しないとしてよいだろうか。乙の身体の安全を保護すべきではないか。
構成要件は一般人に向けられた類型的な規範として与えられている。また,行為者自身が特に行為時に知っていた事情を取り込むことで帰責の範囲を妥当に確定すべきである。そうすると,行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎として,一般人を基準に具体的危険の有無を判断すべきである。
甲は,乙がジンジャーケーキを食べると深刻な腹痛を起こす(=正常な生理的機能としての胃腸の働きを阻害する)という体質を知っていた。そのため,甲が乙にジンジャーケーキを食べさせる行為には,乙の身体の安全を害する危険を惹起する現実的な(具体的な)危険性があるというべきである。
本問で,一般人は乙がジンジャーケーキを食べると深刻な腹痛を起こすことを認識することはできないだろう。しかし,甲はこの事情を特に知っていた。そのため,甲が乙に人事ジャーケーキを食べさせる行為時点における甲の認識を基礎とすると,一般人とすれば乙の胃腸の正常な機能が害される現実的危険性が認められる。甲は,乙にジンジャーケーキを1ホール食べさせ,その結果乙は腹痛を起こし,正常な胃腸の機能を害された。そのため,甲は乙に対する傷害に及んだというべきである。甲は乙の体質を知った上で上記行為に及んでいるため,傷害罪の故意(38条1項本文)も認められる。

【スク東先生の「諸君が一言“理解”と言ってくれれば・・」】

試験勉強のヒントは,実践的な「スク東先生流」から学ぼう。
スク東先生(以下,「先生」という。)は,今夏の暑さをものともせず,連日ブログ上で(たぶんリアル教室でも)熱い議論を展開している
その熱さは常に全開であり(先生は,「受験業界の松岡修造氏」を自己イメージとしているのかもしれない。),例えば,花子さんが「条文に照らすと○○となります。」と答えたとしても,先生は「それだとすぐに忘れてしまいます。」と厳しい。一度覚えた事項をそんな簡単に忘れてしまうものなのか。先生にとって我々読者は一律に“健忘症”にり患している者どもに過ぎないのかどうなのか知らないが,先生にとって知識とはドラゴンクエストに出てくるレアキャラ「はぐれメタル」のごとく,現れたと思ったらスルリと目の前から姿を消してしまう「イメージ」なのだろう。また,別の角度から見ると,「それだとすぐに忘れてしまいます」は,半ば脅し文句のように見えなくもない。しかし,先生のブログは,リアルな経験に基づくメッセージが多く実践的であるところが,ジメジメしたお説教とは異なるところだ。
いずれにせよ,先生ほど「(覚えたはずの)知識を忘れる」ことに対して危機感を訴えている方はいない(と思う)。筆者などは,忘れたら繰り返し覚え直せばいいだけだと単純に思うのだが,先生はできるだけその繰り返しのための回数を減らし,負担を軽くする方法を提案していると言ってよい。先生のブログは,効果的な勉強方法のプレゼンという体裁も取っている(かも知れない)のだ。
その具体的な方法の一つが「イメージする」である。エゲレス語で表記すれば,「image」である。先生はよく「イメージが大切です。」と繰り返し訴えかけている。試しに先生のブログ内の検索ボックスに「イメージ」と打ち込むと,「イメージ」というワードが使われた記事がそれこそ「雲霞のごときイメージ」で「イメージ」というワードが用いられた記事が出てくる。「イメージ」は,「理解」と並ぶ先生の愛用語の一つと言って差し支えない(先生は,「ミスター理解」「ミスターイメージ」と自らを号しているのかもしれない)。
では,先生のブログで「イメージ」はどう語られているか。先生のブログで語られた「イメージ」を総合し,筆者なりに先生が説く「イメージ」を「イメージ」すると,抽象的な事柄を具体例に置き換えることで議論の流れを押さえやすいという効果効能があるという「イメージ」だ。法律の議論は条文や確立された法理論を用いて解く。法的な問題は具体的なケースから発見しなければならない。法的な問題を解決するために必要な条文や法理論は抽象的であり,そのままでは当該条文や法理論が使われるべき具体的場面を「イメージ」し難い場合も少なくない。そこで意識すべきなのが,先生が提唱する「イメージ」である。具体的な問題は抽象的な条文あるいは理論に引き直し,抽象的な条文や法理論については具体的な例に置き換えてみる。常に「具体的ケースと抽象論の相互交流」を意識的に行うことが重要なのだ。
とはいえ,先生が紹介する具体例の中には,どう見ても極論あるいは暴論にしか見えない例もないではない。例えば2017年11月の「失踪」に関する記事がその典型だ。(記事の内容をごく簡単に紹介すると,「失踪者の財産が処分されるのは,失踪者が失踪したことを原因とするのだから,失踪者本人にも財産が処分されることに幾分かの責任がないではない。そのため,相手方の取引の安全を図るべく失踪者本人の帰責性も少々問う。」というものだ。これは「さじ加減的法理論」という新感覚の法的スキームである。)
しかし,先生がこうした新感覚の法理論を創出したことには理由がある。それは,先生は「イメージ」と共に(あるいはそれ以上に)「インパクト」も重視するからだ。先生は,読者に対しあえて極論あるいは暴論に見える例を紹介することで,理論的な考察を深めるきっかけを提供することを志向していると言えるだろう。純粋理論的には少々難があったとしても,「覚えやすく,しかも忘れ難い」という点では非常に有用なのだ。こうした「インパクト」(エゲレス語で表記すれば「impact」)をもって「イメージ」しながら知識を押さえることは,知識をものにする実践的な方法の一つである(理論的な面については,各自テキスト等を用いて堅実に固めておこう)。


・失敗から学ぶことは多い。ここで、謙虚にエリを正す。ビビルことはない。「失敗≒達成」だから。ただし、面白く、失敗を分析したい。行け!

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